永らくご愛読いただいておりました「たのしい47都道府県正直観光案内」は、第19回奈良県より「本の雑誌」に連載が移りました。当ホームページでは宮田珠己さんの新連載「無脊椎水族館」をスタートしました。合わせてお楽しみ下さい。

はじめに

観光とはなんでしょうか。

 観光の真髄は、すごいもの、奇妙なものを見ることだと私は考えています。日々の生活ではお目にかかれないすごいものを見にいくこと。それによって今までの自分の価値観に揺さぶりをかけ、わずかでも新しい自分に生まれ変わって帰ってくるわけです。
 であるならば、なるべく意外なもの、知らなかったもの、奇妙なもの、とりわけすごいものを見たいと思うのは当然でしょう。

 ところが実際に観光してみると、そんなにすごくないものを見ていることが多いように思います。
 美観地区とか、なんとかタワーとか、滝とか、武家屋敷とか、ローソク岩とか、鳴き龍とか、「○○○ゆかりの地」とか。なかにはすごいものも混じっているのかもしれませんが、まあだいたいあんまりすごくありません。

 思えば、昨今はB級スポット巡りや路地裏散歩に人気があり、私も好きですが、そういうところが流行るのも、もとはといえば、今までさんざんすごくない観光スポットばかり見せられたせいで、みな飽き飽きしているからではないでしょうか。しょうがないからハードルを下げ、その結果としてB級スポットや路地裏の面白さに気づいたということでは?
 B級スポットも路地裏もそれ自体べつに悪くありません。誰にも珍妙なものを見てクスクス笑いたいときがあります。ノスタルジーに浸りたいときもあります。ですがその心の奥に、本当はもっとすごいものが見たいという観光客魂の叫びが聞こえないでしょうか。

 道の駅で地元の特産品を買い、鄙びた土地に知られざるおしゃなカフェを見つけ、路地裏でかわいい雑貨を買うこと。それもまた今どきの観光なのでしょう。けれども、あくまでそれは観光の枝葉に過ぎません。枝葉が充実するのは構いませんが、肝心の幹の部分はどうなってるのでしょうか。

 すごい観光地はどこにあるのでしょう。

 ためしに旅慣れた人に聞いてみますと、嬉々として教えてくれることがあります。「○○県に○○というところがあってね、云々」
 ただ、旅慣れた人は自分の好みがわかっているので、同じような場所ばかり巡る傾向があります。どんな場所を巡ろうと本人の勝手ですが、あまりマニアックな旅人の話は参考にならないと思ったほうがいいでしょう。城とか水族館が好きというのならまだしも、たまにお墓とかダムとか言いだす達人がいて役に立ちません。たとえば坂本龍馬の墓とか言われても、坂本龍馬によほど思い入れがなければ、ただの大きな石です。与謝蕪村でも、源頼朝でも同じです。どんなに有名人であっても、墓なんかとくに面白くない。唯一日本で面白い墓があるとすれば、キリストの墓ぐらいでしょうか。そしてダム。おお、これは日本唯一の三連続中空重力ダムだあ、ってどんだけ珍しいのか知りませんが、一般人の知ったことではありません。

 やはり一般人には見た目が大事。一見してわかるすごさで驚かせてほしいものです。

 言うまでもないことですが、すごいと言っても、必ずしもでっかいものや派手なものばかりがすごいわけではありません。細かかったり素朴なもの、地味なもののなかにも、すごいものはある。B級スポットや路地裏にも、武家屋敷やタワーのなかにも探せばすごいものは当然あると思います。奇妙なお墓、すごいダムなら私も見たい。つまり専門的知識がなくてもマニアの目で見なくても、誰が見ても来てよかったと思える、手ごたえの感じられる場所を観光したいということです。

 というわけで己の観光客魂に従い、妥協なき観光案内を書いてみることにしました。想定している読者は、その県に行くのは最初で最後かもしれない人です。一度しかない機会をみすみすつまらない観光地で過ごしてしまわないために、参考にしてもらえればと思います。

 最初にスタンスをはっきりさせておきます。

・マニアでなくても、専門知識がなくても楽しめる観光スポットのなかから、正直にいいと思う場所だけを厳選し、都道府県別に紹介する。
・グルメや、おみやげ、店、宿などの情報は枝葉だから扱わない。ただしものすごいものに出会った場合に限りとりあげる場合もある。
・めんどくさいのでアクセス情報、入場料、休館日などは扱わない。行きたい場所があれば各自調べるように。
・ゆるキャラの撲滅を目指す。

 最後が唐突ですが、ゆるキャラは害獣です。せっかくそこにすごい観光スポットがあるのに、そのすごさを安売りするような態度は許しがたいものがあります。本当に素晴らしい観光地には、ゆるキャラなど必要ありません。ゆるキャラのいない日本は私の願いです。

以上