永らくご愛読いただいておりました「たのしい47都道府県正直観光案内」は、第19回奈良県より「本の雑誌」に連載が移りました。当ホームページでは宮田珠己さんの新連載「無脊椎水族館」をスタートしました。合わせてお楽しみ下さい。

第11回 福岡県

 福岡県と聞いて、誰もがまず思い浮かべるのは博多でしょう。

 空港と新幹線の駅と都心がコンパクトにまとまり、海や山などの自然も近く、転勤先として大人気の博多。めしもうまいと評判です。

 筥崎宮か太宰府天満宮でも見物したら、天神でウィンドウショッピングし、夜は中州の屋台で博多ラーメン。福岡県に観光に行ったことのある人は、まあだいたいそんな感じで過ごしたのではないでしょうか。

 昨今は少し西のほうへ足をのばして、新しいお店が増えた糸島あたりを徘徊するのも流行っていると聞きます。現地の友人に、白糸の滝の流しそうめんに連れて行かれたりするのも、すっかり福岡観光の定番になりました。

 ですが、それで福岡県を満喫した気になっていいのでしょうか。

 え、何? 福岡ドーム? 大濠公園? キャナルシティ? 海の中道のマリンワールドにも行った?

 そうですか。でも、それが福岡観光なのでしょうか。それで真に福岡を観光したと言えるでしょうか。ここで私が言いたいのは、つまり、それ全部、博多周辺だろ、ということなのです。

 そう。福岡県の問題はこの点にあります。

 いや、少し詳しい人であれば、博多以外に北九州の門司港を訪れたことがあるかもしれません。門司港周辺にはちょっとした見どころが集中しています。

 山口県の下関へ歩いて渡れる海底トンネルや、レトロな街並み、鉄道記念館もあったでしょうか。さらに和布刈公園のほうに回り込みますと、日本最大ではないかと思われるタコの滑り台があって、知る人ぞ知る名所となっています。

 ですが、福岡県で知っているのも、ここまでです。夜空の星でいうなら、1等星の博多、2等星の門司港があり、博多の隣に連星の大宰府が光っているのが見えますが、あとは真っ暗。肉眼では何も見えません。

 え、福岡県ってそれ以外何かあるの?

 と思った人はよくよく地図を見てください。博多は福岡県のむしろ外れにあり、福岡県は瀬戸内海側や有明海方面にも展開していることがわかるはずです。そこそこ広さのある県なのです。にもかかわらず、肉眼で見えるのは博多と門司港、あとは太宰府、それだけです。

 福岡県には博多周辺と門司港以外に、いったいどんな観光地があるのか。とっさに3つ以上挙げられる人は、そうそういないのではないでしょうか。

 福岡県未体験者にいたっては、福岡=博多、と考えている人もいるかもしれません。でもそんなはずはないのです。何かあるはずです。

 ここから先はハッブル望遠鏡で見てみましょう。

 よくよく解像度をあげてみると、久留米に高さ62メートルの大観音が見えます。この大観音は、やたらゴージャスなことで知られており、額の白毫と呼ばれる部分、つまりウルトラセブンでいうビームランプのある場所には、直径30センチの純金の板に3カラットのダイヤモンドが18個埋め込まれ、胸には2000カラットの水晶、さらにその周囲には56個のヒスイがちりばめられているという具合で、貧乏人にはまばゆいばかり。大観音の内部に入ると、人類はみな平等などと謳ってありますが、そんなに宝石ばかり見せられたあとでは、まったく腑に落ちません。それでも内部には地獄めぐりのアトラクションなどもあって楽しめるので、行ってみる価値はあるでしょう。

 また北九州にはスペースワールドという遊園地があって、日本では山梨県の富士急ハイランド、三重県のナガシマスパーランドに次いでジェットコースターが充実しています。

 さらに、ひょっとするともうすぐ世界遺産に認定されるかもしれない宗像大社という由緒ある神社があります。宗像大社の沖の玄界灘には、沖ノ島という女人禁制の聖地があって、男子であっても観光などといった軽々しい目的では上陸できないことになっています。パワースポットとして非常に魅力的ではありますが、残念ながらこれは割愛。

 んんん、いくつか列挙してみましたが、博多の光がまぶしすぎるせいか、どうもわざわざ行ってみたい感がありません。なぜこんなことになっているのでしょうか。

 あらためて地図を広げてみると、福岡県は中央部の筑豊、南部の三池など、かつて炭鉱で栄えた土地で占められていることがわかります。つまり、ひと昔前まで、福岡=炭鉱地帯、だったのです。石炭もほぼ掘りつくされた今では、それが観光的に未発達の大地となって残ってしまっているわけです。

 ああ、もういいよ、博多があればそれで。

 なんだかそんな気持ちになってきました。

 しかしもう少しがんばってみましょう。

 篠栗霊場はどうでしょうか。博多と筑豊を結ぶ篠栗線に沿って、霊場が点在しています。なかでも南蔵院と呼ばれる篠栗四国の一番札所には巨大な涅槃像があって、それなりに有名です。久留米と篠栗、2つの巨大仏を巡れば何かいいことあるかもしれない。

 巨大で思い出しましたが、福津市にある宮地嶽神社には巨大なしめ縄があって、ちょっと面白い。

 あとは、そうだ、筑豊の炭鉱地帯のなかに、王塚古墳という装飾古墳があります。近畿地方などにある古墳と違い、内部の壁画が原始時代っぽく、それでいてカラフルというプリミティブな古墳で、洞窟壁画などに興味のある人には面白いと思われます。

 自然はどうでしょうか。

 県の西北部に日本3大カルストの一角を担う平尾台があります。山口県の秋吉台、愛媛と高知にまたがる四国カルストなどと比べると、起伏が激しく箱庭の風情があってなかなかです。ここにはカルストにつきものの鍾乳洞がいくつかあって、そのなかのひとつ千仏鍾乳洞は、洞窟の中に川が流れ、そこをバシャバシャ歩いて奥へ進める冒険気分たっぷりの洞窟です。900メートル地点で照明設備はなくなりますが、地獄トンネルという低い穴を抜けて、自力でさらに奥へと進むこともできます。ふつうの鍾乳洞に飽きた人にはもってこいです。

 それから、ほかには、ええと、ええと......。

 ブッブー、タイムアップ!

 福岡県からは以上です。