WEB本の雑誌

1月8日(火)

 昨日訪問した横浜では、今年とある大手書店が出店してくるという噂で大騒ぎ。現在ある書店さんたちは、どれくらい来客数が落ち、何%売上が下がるのか…という心配を抱え、新年から大変な状況になっている。

 日本各地でこのような大書店の出店攻勢が続いているが、全体としての本の売上は下がっているわけで、結局は読者の広がりにはつながっていない様子。そこがなんとも歯がゆいが、まあ、出版社が面白い本を作っていないという証拠にもなるのだろう。

 そんななかでもM書店のYさんはやる気を見せて、「売り場面積からいってとても太刀打ちできる状態じゃないけれど、ある程度ターゲットを絞って、そこに合う本をしっかり揃えていきたい」と話す。そう、Yさんの棚はいつ見ても活気があって、僕の横浜訪問の楽しみのひとつになっている。いったい今月はどの本がYさんのアンテナに引っかかったのか? そんな興味を持っていつも訪問し、ドーンと展開された本を見ているとそれが自社の本でもないにも関わらず、しっかり売ってもらうんだよ…なんて気持ちになってくるのは不思議だ。

 さて、その活気ある棚を作る原動力は、何といっても朝から晩まで働きづめで、それでも仕事を楽しむ姿勢を忘れていないYさん自身のエネルギーだと僕は思っている。棚はやっぱり書店員さんの鏡。こうやって楽しく仕事をしている(もちろんつらいこともあるけどそれも楽しむ人柄)担当者がいると、そこに並べられている本も一斉に輝き出しているように感じるのだ。僕はいろんな書店さんでそんな棚を眺め、自分をかえりみて、反省する毎日。

「12月は疲れちゃって、全然小説が読めなかったの。そんななかでも、コレは!と思った一押しがあるのよ」と言って一冊の本を紹介された。

『盲導犬クイールの一生』 石黒謙吾<文> 秋元良平<写真>(文藝春秋)

 平台の一番良い所に積まれたその本を手に取り、ペラペラとめくりながら、ああ、これは絶対にボロボロ泣いてしまうだろうなと思った。僕はこういうのに弱いんだ。早速購入しようと思い、レジに向かおうとしたところYさんに止められる。

「ダメダメ。今在庫が少なくて、これはお客さんの分だから、もし売り切れちゃったら申し訳ないじゃない。杉江さんはいつでも買えるでしょう。来月、来たときに買ってね。その頃にはしっかり追加分が入っていると思うから。」

 もちろん僕も定価で本を買うわけだから1冊の売上に変わりがあるわけではない。そうではなくて、Yさんはこのお店に来店してくれるお客さんを大切にしているということ。何だか新年早々、こんな心の温まる会話が出来て僕は幸せだった。

 次に訪問したお店でしっかり『盲導犬クイールの一生』が積まれていたけれど、これはYさんのお店で買わなければ意味がないと、来月の楽しみにとっておくことにした。