WEB本の雑誌

2月6日(水)

 営業中に発売になったことを知り、会社の帰りに駅前の紀伊國屋書店さんで購入したのが『牙 江夏豊とその時代』後藤正治著(講談社)1800円。何気なく読み始めたら止まらなくなってしまい、帰りの電車をわざと乗り越してしまった。うーん、素晴らしい。

 僕は今でこそサッカー、サッカーとほざいているが、その陰で長年野球も見続けている。好きなチームはヤクルトだけれど、一番好きな選手を挙げろといわれれば、なぜかこの本の主人公江夏豊を挙げる。あのどう猛な目つき、そして自信を持って投げた玉を打たれたときのガックリと惚けた表情のなかにあるちょっとした清々しさ、少年ながらとんでもない人だと憧れた。僕の記憶にあるのは、広島時代と西武時代か。それとアメリカに渡って大リーグに挑戦した晩年である。ちなみに兄貴は堀内恒夫が好きだった。いつもふたりでピッチングフォームを真似をしながらキャッチボールをしていたのはとても良き思い出だ。

 その江夏の最高の時代であったといわれる阪神在籍時代と1960年後半から1970年前半の社会風景を描いたノンフィクションがこの『牙 江夏豊とその時代』である。僕にとってはこの著者もお気に入りのノンフィクション作家でのひとりであるから、まさに黄金バッテリーの本といえよう。

 ノンフィクション作家としての後藤氏の素晴らしさは偏りのない眼で、そして取材対象者へ愛情溢れる接し方をすることだと思う。<悪る者>と<良い者>をやたらに対抗させ、読み物を作り上げてしまう傾向が強いサッカーライターもこの辺を見ならって欲しいと思うけれど、これはまた別の話。

 とにかく、江夏入団時にグランド整備のおっちゃんに怒鳴られた話や、村山実との長年のやりとり、そしてそのスター選手の陰に隠れつつも、どこか個性のある選手達、そのすべてに公平にスポットをあてつつ、野球職人・江夏の姿を浮かび上がらせるその技に思わず脱帽。思わず何度も涙を拭ってしまった。