WEB本の雑誌

3月8日(金)

 今月の新刊、吉田伸子著『恋愛のススメ』の事前注文分短冊を持って取次店を廻る。

 御茶ノ水N社のエレベーターに乗り込もうとしたところ、降りてきた人と何気なく目が合う。うん?と僕のスカスカの脳味噌が動きだし、「どこかで会った顔だ」と反応が出る。相手も眉間にシワを寄せ、何か思いだしている様である。

 一瞬の間のうち、互いに「おお~」と嬌声をあげる。彼女は僕が東京駅Y書店でバイトしていたときのバイト仲間Dさんだった。約10年ぶりの再会だ。聞けば、大学卒業後、海外に井戸を掘りに行く協力隊に参加し、その後、コンピュータ系の出版社に就職。数年勤めた後、常々働きたいと考えていた出版社C社へ押し売りのようにして転職していったという。本日は僕同様、見本出しのためN社を訪れた後だった。

 どうも同じ穴の狢のようで、「まったくあのときの本屋バイトで、この業界に見切りをつければ良かったのに…」と苦笑しつつ、名刺交換をし、再会を約束して別れる。

 続いて飯田橋へ移動し、T社を訪問。担当のMさんに短冊を渡す。仕入の奥にいる小・中学校の同窓生Fさんに挨拶。ここに来ると過去の悪行を話されるので甚だ恥ずかしい。

 T社を出たところで、前から自転車に乗ってくる人とぶつかりそうになる。顔を上げると、何と前の会社の上司Hさんではないか! 数年ぶりの再会だ。(すでにHさんもその会社を退職していて、違う出版社に勤務している)Hさんは僕に仕事のやり方を教えてくれた師匠なので、ずっと会いたいと願っていたが、なかなか互いのタイミングが合わず時が過ぎていた。

 それにしても、なぜに自転車?と質問すると「オレのところは小さいから注文分を自分で取次店に届けなきゃいけないんだよ。」と荷台に積んであったダンボールを叩く。そう、出版社は取次店から集品のある出版社と届けの出版社に分れているのだ。本の雑誌社はもちろんチビ会社だからHさんの会社同様、届けの出版社である。一応それでも倉庫業者に依頼しているので僕が自転車で運ぶということはない。それにしてもなぜにこんな待遇が違うんだろうか?

 夕方会社に戻って、浜本と、重松清著『流星ワゴン』(講談社)について話す。目の前にちょうど今読み始めたところの浜田がいたため、おっさん二人、給湯室でコソコソ話。

 この『流星ワゴン』は、先週顧問の目黒が突然1階に降りてきて「浜本と杉江は絶対に泣く!」と宣言していった課題図書だった。浜本もすぐに読み終えたようで、互いの感想を述べ合う。

 僕の感想は、あの結末に疑問を感じたのとなぜに主人公カズの選択肢が生か死で、離婚が入っていないのかということ。また<サイテーでサイアクな現実>もそれほど最低で最悪とも思えず、あんな風に壊れてしまった家庭に固執する理由がよくわからないと感想を述べた。

 すると浜本は浜本なりの解釈を教えてくれ、なるほどそう言われてみれば、確かにそうだという気がしてくる。さすが編集者! 本に対する感じ方は人様々で、特に我が社のような偏屈ばかりだとその違いが面白い。

 そのやりとりを脇で聞いていた本雑編集の松村に「杉江さん、目黒さんの推薦本に、いつも納得できないって言うなら、それは読書の方向性が違うってことですから、わたしみたいに初めから読まない方がいいんじゃないですか」と鋭く突っ込まれる。確かにそうなんだけど、昨年の『翼はいつまでも』みたいな大涙本もあるし、それにあの身体とあの顔で、「杉江と浜本は絶対に泣くから読んでみな!」とマンツーマンで推薦されてしまっては、読むしかないでしょう…。

 それにしても今日はやけに懐かしい人々に出会った。これは週末何かとてつもない不幸が僕に降りかかるんじゃないかと不安を覚えつつ、家に帰る。