WEB本の雑誌

4月9日(火)

 直行で取次店さんを廻る。『岸和田少年愚連隊 完結篇』事前注文分の短冊を渡す。何だかこの日はホッとする。やっとこれで1冊新刊の営業活動が終わったのだといった、ある種達成感が湧く。

 しかし、訪問できなかった書店さんがあったり、目標まで達成していなかった場合は、逆にうしろめたい気分に襲われたりするもの。100%思い通りにこの日を迎えることはほとんどないので、いつもちょっと残念な気持ちが残る。ああすれば良かった、こうすれば良かったとひとつひとつ思い浮かべて後悔してしまうのだ。

 しかし、すでに次の新刊である吉野朔実著『弟の家には本棚がない』の営業活動もシンクロして始まっており、また既刊分や売行き良好書の営業もしなければならない。常に何かに追われているようで恐ろしい。たぶんどんな仕事も同じなんだろうなあと考えながら、当HP『ほんや横丁』でお世話になっている東京ランダムウォーク六本木店を訪問しようと市ヶ谷から南北線に乗り込んだ。

 六本木1丁目で降り、地上に出る。ところがどこをどう歩いて、どちら方面に向かったら東京ランダムウォークに着くのかわからない。あれ?おかっしいなあ、何回も来たはずなのにどうしてだ。そういえば、いつも六本木駅から坂を下ってお店を訪問し、その後ここから電車に乗り市ヶ谷に向かっていたのだ。今日はいつもと逆だから見慣れないのかもしれないと周辺をうろつく。しかし、それにしてはまったく見たことのない建物ばかり。おかしい、おかしいと考えているうちに駅の場所すらわからなくなってしまった。

 会社に電話を入れ、事務の浜田に泣きついた。
「あのさ、迷子になっちゃったんだけど」
「えっ?」
「渡辺さんのお店に行きたいんだけど、どこだかわからないんだよ」
「えっ、杉江さんは今どこにいるんですか?」
と言いながらガサゴソと地図を開く音がした。

「で、杉江さんが今いるところは?」
「それがわかっていれば、電話しないでしょ。さっき、六本木1丁目の駅から出たんだけど、それからうろついて今どこだかわからないんだよ」
「じゃあ、私にもわかりませんよ。角を3回同じ方向に曲がれば元の位置に戻るはずですよ」
と電話を切られてしまった。恥を忍んで電話したというのに…。

 東京はとても冷たいところだ。30過ぎの男が涙目でうろついているのに誰も声をかけてくれない。そもそもこの辺を歩いている人に「東京ランダムウォークはどこですか?」と聞いて通じるのだろうか? うーん、どうしたら良いんだと適当に歩き回っていると、営団地下鉄のマークを発見する。おかしい、あれだけ歩いてまた「六本木1丁目」の表示ではないか…。

 こうなったらもう営業をあきらめて会社に戻ろうと思った。路線図を確かめると隣駅の「麻布十番」で大江戸線に乗り換えられることがわかった。ならばそれで新宿に出よう。

 しかし麻布十番で乗り換えようとしたところ、おかしな現象が起こった。僕はこの場所を見た記憶があるような気がするのだ。改札も、通路も、デジャブにしてはやけに強い印象が残っているではないか。休日はサッカー場以外ほとんど出かけないから絶対こんな場所に来たことがないはずだし、おまけにお洒落なスポットで酒が飲める柄でもない。うーん、どんな記憶なんだろうか、とりあえず外に出てみようと地上に上がったところで僕は思わず大声を上げてしまった。

「あっ!!!」

 皆様、東京ランダムウォーク六本木店は、決して六本木1丁目駅ではありません。六本木駅もしくは麻布十番駅が最寄り駅になっております。

 こんな頼りない営業は、きっと本の雑誌社くらいしか雇ってくれないだろう。