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4月13日(土) 炎の出張日誌

 ついにこの日がやってきた。何度も夢見た出張だ。それも僕にとっては未開の地<杜の都>仙台だ。いったいどんな本屋さんがあるのか、考えただけで胸が膨らむ。

 しかし、ここには大きな落とし穴があって、なんと出張経費は自分持ち。いわゆる自費なのである。こんなヒドイ会社、他にあるんだろうか? これって会社なんだろうか?
「おかしいんじゃないですか!」と浜本に詰め寄ったのは先週のことで、その答えは一言。
「だって、お前、サッカーで行くんだろ。」
「……。」

 というわけで観戦仲間のKさんやOさんと車に乗って、東北道をひた走る。埼玉から仙台までたった4時間。新幹線なら2時間だ。ふと考えたのは、これって日帰りで行ける距離ってことかということ。

 例えば、大宮駅で8時に新幹線を乗ったとしたら、仙台に10時着。昼過ぎまで市内の書店さんを廻って、その後、上りの新幹線を途中下車しつつ、郡山や宇都宮を廻れば、ある意味一日の営業ルートになるのではないか。<東北その1>という営業ルートが、通常の営業として完成するのではないか。

 そういえば、前の会社のとき、日帰り名古屋出張というのをやって死にそうになったことを思い出す。あのとき考えたのは、労働時間と疲労が比例するのではなく、移動距離と疲労が比例するんじゃないかということだった。

 うーん、<東北その1>はどうだろうか…。

 さて、仙台に着いて早速市営地下鉄に乗り込む。目指すは、この誰も知らない土地で唯一知っている書店員IさんとCさんがいらっしゃる長町南のK書店。IさんとはDMゃFAXで注文のやりとりをしていて、いやそんなことよりもIさん熱狂的ベガルタサポなのだ。いつも注文書の脇に熱いサッカー談義を書き送ってくれていて、これは会わずにいられない。

 そしてそのIさんと同僚のCさん。Cさんとは何度かとある書店員さんが作っているHPでやりとりしたことがあって、その時、互いに孤高の文芸作家・丸山健二のファンと知り、驚いたことがあったのだ。それは丸山健二のファンが僕以外にいることを初めて知った瞬間だった。いやはや、こんなうれしいことはない。

 見知らぬ駅を降り、そして直結された大きなショッピングモールに入る。K書店さんはこの中にあるのだ。どんなお店なのか期待が膨らむ。知らない本屋さんに入るこの高揚感。これはまずいつもの営業ではなかなか感じられない喜びだ。エスカレーターを上りながら、心臓がドキドキし、額に汗が垂れる。

 そして、辿り着き、店内を見てビックリ。凄まじい熱気というか、お客さんが山のようにいるではないか。こんなに混んでいる書店さん、久しぶりに見たような気がする…。

 ぶらぶらと棚を見た後、レジに並ぶ書店員さんの名札を確認していると、おお、Iさんを発見。あわてて挨拶。初めてのはずなのに、初めてでないような、何だか不思議な感じだった。おまけに仕事の話をすっかり忘れてサッカーの話ばかりしてしまう。

 それにしてもあまりに忙しそうで申し訳ない気持ちになってしまう。Iさんが言うには完全な土日型なのだそうだけれど、それにしてもすごい混雑。それなのに、店長のNさんまでご紹介してくれ、その優しさに涙が出そうになってしまった。よくよく考えてみたら、僕はスーツすら来ておらず、普段着のままなのだ…。

 その後Cさんにもお会いでき、丸山健二の話で盛り上がり、すっかり満足してK書店さんを後にした。

 しかし何だかとても名残惜しい。このお店、また来たい。もちろん人の優しさだけでなく、棚もしっかり充実しているし、まったく地方の書店さんとは思えない品揃えなのだ。仙台駅へ戻る地下鉄の中で、訪問できた喜びよりも、もう来ることが出来ない悲しみに胸がしめつけられてしまった。結局その後、仙台市内の書店さんを廻ったが、こちらは見学だけ…。本当の出張に行きたい。