WEB本の雑誌

4月26日(金)

 先日、自宅でぼんやり読んでいない方の、いわゆる未読の本を並べている本棚を眺めていたら、ここのところ完全にハマっている「半村良」の文字が目に飛び込んでくる。半村良氏を知ったのは、先日の長老みさわさんのアドバイス以来で、『かかし長屋』(集英社文庫)を読み、その後購入した本もすべてこの勢いで読了しているから、未読の棚に並んでいるのはおかしい。

 すでに読んでしまった本を間違えて置いたのかと考えたが、キレイに新刊案内などが挟まっていてまったく読んだ形跡がない。しばらく装丁を眺め、記憶の底をさらっていると、ハッと思い出す。

 僕は扶桑社文庫の昭和ミステリ秘宝と銘打った復刊シリーズが好きなのだ。もちろん僕は深いミステリ読者ではないから、そのラインナップがどれほど名作でみんなに待ちこがれられていたかは知らない。けれど、あの手触りの良いカバーと装丁が大好きで、ついつい目に付くと買っていたのだ。そのほとんどが未読の本棚に並んでいるけれど…。

 僕がこの日未読の本棚で発見した半村良氏の著作はその昭和ミステリ秘宝シリーズで復刊された『どぶどろ』であった。おまけに思い出してみるなら、この本を買ったのは飯田橋の深夜プラス1で、そのとき店長の浅沼さんにこう言われたのだ。「宮部みゆきの教科書だよ。これを読まずに何を読む!」と。

 その日、寝床に就き『どぶどろ』を読み出した。7編の短篇が1編の中篇に受け継がれ最終的に大きな流れとなって全体が長篇をなすという一風変わった手法の市井時代小説である。その短編部分を読み出したときに、もうこの本が僕にとって大事な1冊になることに気づき、あわてて布団の中から這いだした。そう、僕の始まったばかりの30代を生きていくための1冊になりえそうな予感がし、朝方読み終えたときにそれは確信に変わった。人生のすべてが詰まっているような、味わい深い内容で、僕は絶対何度も何度もこの『どぶどろ』読み返すことになるだろう。

 あらすじに関しては、巻末にある宮部みゆき氏の解説を是非お読み頂きたい。こんなに愛のあふれた解説を僕は読んだことがないし、僕の中途半端な紹介のせいでこの本を手に取るのを控えられてしまったら、これほど勿体ないことはないからだ。

 そして、今、あらためて長老みさわさんに感謝している。たぶんあのアドバイスがなければ、『かかし長屋』も『どぶどろ』もそして他の半村作品を読む機会がなかったと思う。あったとしてもまだずっと先だったような気がするのだ。

 今、半村作品を読めた感動とともに、こんな不思議な本の繋がりに僕はもっともっと深く感動している。

 やっぱり「本」は良い。


追記)ゴールデンウィークの10連休はとりませんが、とりあえずこの10日間は日記をお休み致します。