5月10日(金)
助っ人学生浅野さんが、同じく助っ人学生の中川さんに向かって話かける。
「ああ、今日で十代が終わっちゃうぅ。超ショック…。」
それを聞いていた事務の浜田の顔が一瞬ぴくりと動く。彼女とは向かい合わせに座っているのでそんな表情の変化が僕にはよくわかる。
しかし遠く離れた助っ人机に陣取っている二人はまったく気づかず、二十代という響きに含まれたちょっとした老いについて、話し続けていた。
浜田は顔面の右側を大きく引きつらせ硬直させていった。しかしここで不満を言えば、自分が年について気にしていることを白状することになってしまうため、じっと耐えているようであった。ちなみに浜田はあと三ヶ月で二十代よりもうひとつ上の世代に突入するのだ。
浅野さんと中川さんの会話が続く。遅生まれの中川さんは、まだかなりの間十代で過ごせると自慢げだ。僕の前の浜田の顔は今までみたどんなホラー映画の化け物よりも恐ろしいほど憤怒の形相になっていた。
フゥー、と深呼吸をして浜田は若干その怒りを吐き出した。しかしまだ治まりきっていないのは、眉毛のピクつきでよくわかる。
「あのさぁ、杉江さん。」
「うん?」
「杉江さんって今年で三十歳? それとももう三十歳?」
どうしてこんな判りきったことを聞くのだろうかと思いつつも、ここで化け物に暴れられては困ると、素直に答えた。
「オレは今年の七月で31だよ。」
「ああ、そうなんだぁ、その間、杉江さんと私は二つ違いになるんだ。わたしは二十代。へぇ、杉江さんってもう完全におっさん…。キキキ。」
結局、浜田は僕を虐げることによってガス抜きできたようだ。助っ人学生二人の命を救ったと思えば、それはそれで仕方ない。中間管理職はつらいもんだ。