WEB本の雑誌

5月15日(水)

「うちの下の息子が今年から高校に通っているんだけど、それが学校まで電車に乗って1時間くらいかかるんだ。満員電車がイヤだとか生意気言って、朝の7時前に家を出ていくんだ。それだとガラガラなんだって。で、ゆっくり座って行けるから何かしようって考えたらしくて、『お父さん面白い本ない?』って聞かれてさあ。いやー、焦ちゃって。とりあえず、息子と同じくらいの主人公が出てくる話がいいだろうと思って、まず『GO』金城一紀著(講談社)を渡したら、あっという間に読み終わったらしくて、『この人の他の本を!』って言うんだけど、ないじゃないあと1冊しか。それで長野まゆみを何冊か渡して、その後、『僕は勉強ができない』山田詠美(新潮文庫)と『インストール』綿矢りさ(河出書房新社)って今のところ続いているんだけどねぇ。なんか本読むの楽しいみたいなんだよ。これが自分で読みたい本を見つけだせるようになったら、うれしいよねぇ。」

 と、目尻を下げたP書店のHさんが話してくれた。町の小さな本屋さんで、売上もあんまり芳しくないけれど、絶対Hさんは幸せだと僕は話を伺いながら考えていた。そしていつの日か、その息子さんがHさんの本棚をぼんやり眺める日が来たら、もっともっと幸せだろうと。