5月17日(金)
会社に残って、W杯日本代表最終メンバーの発表を待つ。それは、誰が選ばれるのかといった意識ではなく、僕は選ばれないだろうか?といった期待からである。
そのことを朝から社内で吠えていたのだが、発行人浜本は「ふ~ん」と言ったきり仕事に没頭し、事務の浜田には「そうですね、選ばれると良いですね」なんて妙に暖かすぎる言葉をかけらる次第。どうしてもう少し真剣に考えてくれないんだろうか?
僕は、ここ数日自分が日本代表に選ばれることを想像し、そして選考される理由に思い当たったのである。
まず第1に。僕は確実に選ばれるであろう中田英寿や小野伸二よりもサッカー歴が長いということ。小学校3年の時に家の隣に住んでいる素晴らしくサッカーの巧い5つ離れたお兄さんからサッカーを手ほどきされて以来、かれこれ20年が過ぎている。中田にも小野にも、その他今まで日本代表に呼ばれた多くの選手よりもきっと長い。
その2。3年ほど前、唐突に僕は大きな勘違いに気づいた。それは、それまで考えていた利き足(右足)が間違いで、実は逆足(左足)が利き足だったということだ。蹴ってみたらいきなりスコーンとボールが飛び、最高のセンターリングを上げていた。あわてて練習した結果、今では両足で同じようにボールを扱えるようになり、右足でトラップし、左足でドリブル、再度持ち替えて右足でシュートを打つことも可能になったのだ。もちろんその逆もまったく問題ない。
ということは、中村俊輔や名波のように、ぎこちなくどんなボールも左足に切り替える必要がないということだ。これはかなりの利点だと思われる。ただ大きな問題がひとつある。僕の両足と、中村や名波の逆足(右足)の実力差が…。
その3。僕は今年になって自分のチーム試合で7本のシュートを決めている。これは現在代表に呼ばれているどのFWよりも多い。……。
最後に。トルシエはフランス人だ。その母国フランスで先日行われた大統領選挙で、国民が現職を毛嫌いするあまりに極右政党に投票してしまい、とんでもない結果になったではないか。そんなやけくそな気分を持つ国民性のトルシエならば土壇場で23名のうちひとりくらいへんてこな奴を選んでくれそうではないか。
こんなに真面目に考えていたのに、どうして会社の人達は冷たいんだろうか?と思いつつ、発表の3時半をただただ待つ。
結果は当然というか、残念というか、僕の選出はなくガックリ。浜田も同様にガックリしているので、僕の気持ちをやっと理解してくれたのかと思ったが、話を聞くと中村俊輔が落ちたからだとか…。ああ。
せめて誰か、僕の落選記者会見を開いてくれないかとわざわざ遅くまで残って期待していたが、誰も反応してくれない。仕方なくひとり助っ人机の上に乗り、前日から考えていたコメントを発表した。
「まだ、30歳。06年のドイツW杯のときは34歳です。まだ、充分可能性があります。それに僕は年々サッカーが巧くなっているので、大器晩成なのではないかと思います。ドイツに照準を合わせ、そのときサッカー選手としてピークが来るよう、明日からより一層努力します」
すると奥の方から金子の「うるせぇ!」の一言。どうしてみんなこの気持ちわかってくれないんだろう。