WEB本の雑誌

5月20日(月)

 渋谷のS書店M店長さんとはとても古いツキアイ。前にも書いたことがあるけれど、かつて勤めていた医学系の出版社のときから大変お世話になっていて、僕はMさんに会う度、いろんなことを教えられてきた。

 そんなMさんのところに『弟の家には本棚がない』の営業に行ったのは先月のこと。どうも今までMさんが配属されるお店とうちの本の兼ね合いが悪く、なかなか売上に貢献することができず心苦しく思っていた。Mさん自身もそんな風に考えてくれていたらしく、いきなり『弟の家には本棚がない』のチラシを見て、「杉江くん! やっとしっかり仕事ができるかもしれない」と
喜んでくれるではないか。そうこのお店には、別フロアにドーンとコミックを展開している売場があるのだ。

 早速担当のNさんを呼んでくれ、久しぶりにMさんと真面目な商談。なんと担当のNさんが吉野さんのファンとのことで、あっという間に店頭ワゴンが決まってしまった。

 そしてそのワゴン用の看板を製作することを僕は約束していた。しかしそのようなものを印刷会社やデザイナーに発注するほど本の雑誌社にはお金もなく、また僕にはそういうものを作るセンスの欠片もない。自慢じゃないが、かつて勤めていた書店でポップを書いた際、装着して数分後に回収された経験があるのだ。

 困ったときには大きな声でブツブツ言え、というのが僕の仕事の師匠Hさんの教えなので、それに従い社内で騒いでいた。

 すると助っ人学生の浅野さんが恐る恐る「あの~、杉江さん。わたしそういうの作るの大好きなんで作りましょうか?」と救いの神になることを申し出てくれるではないか。「いやー、そんなことまで助っ人さんにやってもらっては…」と僕は一瞬困惑気な顔を作り恐縮してみたが、なぜか身体は反応し、すぐさま画材屋に走らせてしまった。どうもサラリーマンを長年続けていると、心と身体が別物になってしまって仕方ない。

 それから数日後、浅野さんが大きな袋を持って出社。話を聞くと、妙に真剣に作りたくなってしまってなんと自宅で徹夜して製作してくれたとか。出来上がった看板を見せてもらうと、まさに僕が思い描いていたものどおりの出来で、思わず感動の涙。

 感謝の気持ちを現そうと思ったが、二十歳の女性の頭を撫でるわけにもいかず、また抱きつくわけにもいかず、ただただ「ありがとう」の言葉を並べることしか出来ない。感謝を伝えるのは、怒りを伝えるより難しい。

 結局仕事をしていると、当然のことだけれど「自分ひとりでは何もできない」ということを思い知らされる。現在、今月末から行う予定の日本橋丸善さんでのフェア用にサイン本を作りまくっているのだが、その手配もほとんど事務の浜田任せ。何とも情けないほど、僕は何も出来ない。

 十代の頃非常に長かった鼻は、いつの間にか逆にへこむほど無くなってしまっている。まあ、それはそれで良いけれど、もう少し自分で出来るようにならないと周りに迷惑かけるばかりの、とんでもない人間になってしまいそう。

 どうにか持ち場の仕事である、営業でそのマイナスを取り返したいと考えている。
 浅野さん、ありがとう。