WEB本の雑誌

6月26日(水) 炎のサッカー日誌 ワールドカップ篇その3

 唐突に誘われ、唐突に早退し、埼玉スタジアムへ。
 しかし会社の誰もが驚かず、「いってらっしゃ~い」と優しく送り出してくれる。「仕事よりもサッカーが大事」と周囲の人に理解してもらうまでかなり苦労したが、ここまで来ればもう安心。心おきなくワールドカップ準決勝を堪能できるというもの。

 実は夜8時30分のキックオフだから、早退しなくても本当は間に合う。でもやっぱりサッカーを観るのにスーツじゃ堅苦しいし、試合後の余韻以上に、僕は始まるまでの緊張感と期待感が入り交じったどこか惚けた時間が好きなのだ。同行者と会話しながらも気がそぞろ、スタジアムに何か動きが起こればすぐにそちらに視線を飛ばしてしまう。そんな時の流れが僕は何よりが大好きだ。

 このために引っ越した我が家から、自転車に乗って埼玉スタジアムへ。駅前にはシャトルバスを待つ列が何列も出来ていた。人からみたら大変くだらないことだけれど、僕の胸には優越感がこみ上げる。浦和レッズの試合は、なるべく酒を飲まずしらふで観戦しているけれど、ワールドカップでは、あまりにも周りが興奮していて、しかもその興奮がちょっと異質で、こちらがしらふだとちょっと気恥ずかしくなってしまう。「踊る阿呆に見る阿呆、どうせ阿呆なら踊らにゃ損損」とばかりに、途中コンビニで缶ビールを買い、そいつを飲みながら自転車を走らせた。

 通常の駐輪場は閉鎖されているため、スタジアムから距離のある場所を指定された。不平を垂れつつ歩いていると、目の前を見たことのある人がこちらに向かってくる。おお! ハウンドドックのボーカル大友康平ではないか! 学生時代非常に憧れていて、CDはすべて買い、ライブにも足げく通い、今でもミーハー的会ってみたい人ナンバー2にリストアップされているその本人! 信じられない遭遇に思わず興奮の握手。しかし何も言えないのが僕の弱点であり、それは営業マンとしても押しがないダメさの素。それでもとびっきりうれしい数秒間だった。

 ブラジル対トルコ戦。始まるまではサッカーキッズの頃から魅了されていたブラジルに興味を抱いていたが、時間の経過とともにトルコの素晴らしいサッカーに心を奪われていく。ボールをピタリと止めるトラップ。そこからのドリブル。短いパス、長いパス。敵と1対1になったときの鋭い切り返し。前線を追い越すフリーランニング。個人技術と組織力が絶妙に融合されていて、そのなかにキラリと光る選手が突破やスルーパスを試みる。ハサンとエムレベロゾールは僕好みの選手だ。同行の友人がポツリと漏らす。「ハジがいたときのルーマニアに似ている」。

 僕と友人はトルコのサッカーの素晴らしさに魅了され、数多くあったチャンスに声をあげてしまいそうになる。しかし周りは浅草サンバカーニバル状態なので、声は出せない。唇を噛みつつ、何度も立ち上がりそうになる腰を下げ、必死に我慢しつつもトルコを応援していた。

 結局唯一トルコに足りなかったのはシュート力で、それだけが頼りのブラジルに敗北してしまった。しかし、僕のこのトルコサッカーへの感動は静まりそうにない。そして恐ろしい予感もする。浦和レッズを応援するために浦和に引越をしてしまった僕が次ぎに何をするのか。自転車に乗りながら、グルグルと頭の中が動き出す。

 家に帰って僕は、高々と宣言した。
「トルコに行くぞ!」