WEB本の雑誌

7月10日(水)

 とある書店さんを直納のため訪問。担当の書店員さんがある本を指さし、うんざり顔で話す。

「あの本の版元の営業が来てね、うるさいの。○○書店で××冊売れていて、△△書店では□□部売れたって。何だかこっちが努力してないみたいじゃない。○○書店も△△書店も全然客層が違うんだから、そういうこと考えて話せばいいのにね。思わず頭に来て『だったらその○○書店で全部売ってもらえばいいじゃない』って言っちゃった。」

 他の書店の売上データを上げて「これだけ売れている、だからおたくもどうですか!」という営業マンは結構多いが、これは結構両刃の剣で、なかにはその数字に目移りし注文をくれる書店さんもあるが、一歩間違うとこのように書店さんの怒りを買うこともある。日本全国同じ本が売れるとすれば、それは爆発的なベストセラーでしかなく、それ以外はやはり客層の違いが如実に現れるもの。

 多分、「どこでどれだけ売れた」より「なぜそこで売れたのか」の方を書店さんは知りたいんじゃないか。そこから客層の違いが見え、自店の傾向がハッキリし、品揃えのヒントが隠れている。

 暑さに負けて、ダラダラと営業をし、会社に戻る。また別のとある書店さんから電話があり、いきなり
「聞いてくださいよ~」の嘆き声。

「この前杉江さんが来たとき、文庫フェアの棚を見て言っていたじゃない。そうそう夏の奴。うちは狭い店だからスペースに限界があって、○社の文庫だけ普通の棚の平台に乗せていたでしょ。そしたら杉江さん、『これ○社の営業が来たら文句言いますよ』って言っていて、どうせ来ませんよと僕、笑っていたじゃないですか。そしたら来たんですよ、○社が。

 いつもは温厚な書店員さんなのだが、今日はやたらに早口で声に力がこもっていた。

「そんでね、いきなり近寄ってきて『どうしてうちだけここなんですか!』てふくれてるの。だからスペースに限りがあって、△社と□社で、クルクル回すつもりだって言っているのに『夏は普通の平台とフェアがあるからおいしんじゃないか』ってしつこいんですよ。おいしいのはお前のとこだけだろって怒鳴ろうかと思ったけど、今後の配本とかもあるから黙っているしかないんですよ。すごい若造で、本のことも全然知らないし、本当に嫌になっちゃいましたよ。自分じゃなくて、名刺がモノをいっているってこと気づかないんですかね。ああ、とりあえず今日飲みましょう」

 外は台風が近づき、大雨が降っていた。それでも遅くまで酒を飲んだ。荒れているのは天気だけでなく、その書店員さんの心も同様だった。

「本屋の店員のレベルが下がった下がったって言われるじゃない。確かにそれはあるかもしれないけれど、出版社の営業や編集のレベルだって同じように下がっているんじゃない。そもそも営業マンって何しにお店に来るの?」

 愚痴と言ってしまえばそれまでかもしれないが、もっともっと重い言葉だと僕はとらえていた。そしてその書店員さんと別れ、終電ギリギリの、雨を切り裂くように走る電車のなかで、僕は何度も何度も考え、答えを探し求めた。吐き出すように呟かれた言葉。「営業マンはなぜお店に足を運ぶのか」の…。