8月20日(火)
昨日、溜まっていたデスクワークを処理するのに結局お昼までかかってしまった。するとちょうどその時間が一日の始まりとなる顧問目黒が1Fに降りてきた。相変わらずだらしない格好なのだが、本人はきっとそのまま笹塚駅周辺に買い出しに行こうとしているのだろう。
目黒が、夏休み明けの僕を見つけて声をかけて来る。きっとお前はてっきりもう辞めたのかと思ったなんて嫌味のひとつを言われるのだろうと身構えていたら、予想外も予想外、とんでもなく優しい言葉をかけてきたのだ。
「杉江くん、今日から出社? いやー、君がいないと淋しくてね」
ちょっと裏があるのかとビビリつつ、顔色をうかがってしまったが、僕の近くにわざわざ寄ってきて、ニコニコ笑顔を浮かべて本の話やら競馬の話をしていくあたり、どうも素直な言葉だったようだ。嬉しいような、気持ち悪いような、いったいどうしたの? 夏休み中、何かあったの?
不思議に思っていると、目黒は編集の松村のところへ。なんだか来月号の新刊めったくたガイドで取り上げる予定の本の話をしているようなのだが、松村がキッパリ一言。
「目黒さん、本当にその本自分で持ってますか?! 写真を撮るんですから、本屋で見ただけとかだと非常に困るんです!」
「えっ、そういわれるとなあ…。オレが持っているか持っていないかで100万円賭けるかって言われたらオレは賭けたくないくらいの自信なんだよなあ…。あると思うんだけど、無いかもしれないなあ…。えーっと……。」
目黒は両肩を落とし、背中を丸め、外に出ていった。なるほど、だから僕がいないと淋しいのね…。