10月11日(金)
とあるお世話になっている書店さんからお誘いを受け、初の出張に向かうことになった。名古屋への旅路。ついに念願叶っての出張だ。
そのことを浜本に報告すると
「その週、名古屋グランパスと試合はないのか?」
と聞いてくる。これはなんて優しい社長なのだろうか。もしサッカーがあったら見てきても良いよというのだろう。しかし、残念ながらその間レッズの試合はない。そう浜本に話すと、なぜか悔しそうな顔をしてポツリと漏らす。
「ああ、じゃあ全部経費は会社で出さないといけないんだ。」
単なるケチな社長であった。
いやケチどころか、その後、信じられない恐ろしい発言が続くのだ。
「あのさ、どうせ名古屋に行くなら、京都も1時間でいけるでしょ。そんで大阪も京都から30分だし、神戸も20分くらいだよ。神戸まで行けば岡山も広島も結構近いから、この際全部行ってくれば?」
「あの、それどれくらいの期間出張に行って良いんですか? あまり長く行くと首都圏の仕事が滞ちゃうんですけど」
「えっ、1泊2日だけど」
「……」
どうにかその死のロードは浜本の胸の中だけに納めてもらい、もっと細かい出張経費の打ち合わせをすることにした。本の雑誌社は今までほとんど出張というものがなかったのでそれらの会社的な取り決めがないのである。
「1泊8000円くらいはくれませんか?」
かつての会社の基準を言葉に出すと、浜本は即座にダメだし。
「安いところを探せば5000円くらいのところがあるでしょ? カプセルホテルだったらもっと安いし、温泉ランドみたいなところなら2000円くらいで仮眠できるよ。まだ若いから大丈夫」
そんな押し問答を続けていると突然編集の松村が声を上げる。
「あの~、名古屋だったら私の姉の家がありますんで、そこでどうですか? まだ小さい子供がいますけど、話せば泊めてくれると思いますよ」
おいおい、オレは出張に行くんだ。なんで松村のお姉ちゃん家に泊まらなきゃならないの?
ところが今度は単行本編集の金子が声を上げる。
「みんなさぁ、忘れているみたいだけど、オレ名古屋出身なの。だから名古屋に実家があるんだよ。もう10年くらい帰ってないから、変わりに父親と母親の顔を見てきてくれない? うちの母親『炎の営業日誌』を読んでるからスギエッチのこと知ってると思うんだよね」
相談するのがバカらしくなり、僕は席に戻った。いったい再来週の出張を僕は無事に迎えられるのだろうか。せめて新幹線に乗り、ホテルに泊まりたい。