WEB本の雑誌

2月24日(月)

 会社に出社すると、事務の浜田が声を震わせながら「杉江さん、オウサマが、オウサマが…」と悲鳴をあげている。前から彼女は狂っていると思っていたが、ついに妄想の世界に行ってしまったのか…。いったいオウサマって何だ? どっかの王様と恋でもしたのか? さすがに、こっちは休み明けで、そんな戯言にはとてもつき合っていられない。

 ところが浜田がしつこい。
「杉江さん、オウサマなんです!」
「だからなんだよ、オウサマって。」
「だから、だから、オウサマは王様です。未読王様です」

 自社本を社内で略して呼ぶのはかまわないけど、『未読王購書日記』を略するのにわざわざ「様」をつける必要があるのか? 『未読王購書日記』なら「未読王」で良いんじゃないか。

「で、その王様がどうしたの? サイン本でも作りに来るの?」
「いや違います。神保町のS書店さんから早速追加が入りました。初回30冊入れて、もう20冊以上売れちゃったそうです」
「はぁ?」

 『未読王購書日記』を取次店さんに搬入したのが、21日の金曜日午前中。どんなに早く書店さんに納品になったとしても金曜の午後だろう。1800円の本が、2日で20部売れた…。休日ボケが一気に吹っ飛ぶ。

 これは一大事と早速発行人の浜本に報告。すると浜本、まったく僕の話を信用しない。

「すぎえ~、誰がそんな話を信じるんだ? 今はどん底の出版不況で、確かに『未読王購書日記』は面白いけど、まさかそこまでの勢いで売れるか? たぶん未読王さんが出張で東京に来ていて自分で買い占めたんだよ」

 うーん。そこまで言われてしまうと、誰よりも出版不況を肌身に感じている営業マンとして自信がなくなってしまう。果たして本当に20部売れたのか? もし売れたとしてもまとめ買いなんじゃないのか? まあ、どっちにしても追加の30部を直納すればわかることなので、早速、雪が降るなか会社を飛び出す。

 神保町のS書店さんに入ると、いきなり正面の平台の一番左端(最高に良い場所)に『未読王購書日記』が平積みされていた。その数6部。おぉ! これは本当に売れたということだ。しかし、それでもまだまとめ買いの可能性は残る。担当のSさんに追加分を納品しながら、何気なくその購入者の探りをいれる。

「あの~、ひとりで20部買われたってわけではないんですよね?」
「えっ? いや、あれよあれよって感じで売れていったから、まとめじゃないよ」
「ほんとですか? 誰か外で手配している感じありませんでしたか?」
「どうしたの、そんな変なこと聞いて?」

 ここまで聞き、僕、『未読王購書日記』がほんとにちゃんと売れたことを確信する。いやもっと早くから信じなきゃいけなかったんだけど、いきなりのことなので、どうしても信じられなかったのだ。

 その後、S書店さんの周りの書店さんを伺ったが、やはりかなり良い感じで動き出していた。古本関係本が神保町で売れるのはある意味当然であるが、このスピードは異常だ。あとは、この勢いが神保町を飛び出すかにかかっている。本の雑誌社に王様が春を運んで来てくれるのか、楽しみな日々が続く。