WEB本の雑誌

4月8日(火)

 発行人の浜本が出社してくるなり自分の机をひっかき回し出す。
 しばらく書類や本をバタバタパラパラやっていた。そのうち机の下に潜り込み、ゴツンと頭をぶつけながら奥の方に落ちているメモを拾い出す。誰がどう見ても何かを探しているようなのだが、本の雑誌社スタッフは「一切他人のことに興味がない」連中が集まっているので誰も声をかけない。声をかけないどころか、またバカなことをやっているよと半笑い。すると必死の形相の浜本が頭をさすりながら立ち上がり、大きな声で叫びだす。

「笑ってる場合じゃないんだ! 健康保険証がなくなっちまった!! 誰か知らないか?」
「保険証? えっ、僕、見ましたけど、昨日の朝、浜本さんと打ち合わせしていたとき、浜本さん手元でくるくるしてましたよ。」
 僕、思わず余計なことを口走ってしまう。

「ほんとか? 何時頃だ?」
「だから昨日打ち合わせしていたのが、11時頃でしたから、そのときですよ」
「その時間まで、保険証はここにあったということだな。で、最後の目撃者は杉江なんだな…」

 何だか怪しい展開になって来るではないか。浜本の保険証を盗んで良いことがあるのか? 確か免許証で金が借りられるけど、もしかして保険証で金が借りられるのか? いやオレは盗んでいない。オレは半落ちも完落ちもしないし、まったくのシロだ。

 しかしそれにしても何だかこのまま会社にいると浜本の勢いに負けて、思わず「やりました」と呟いてしまいそうだ。嫌な展開なので営業に向かうことにした。そのとき捨て台詞で「ゴミ箱にでも捨てちゃったんじゃないですか?」と呟いていた。

 朝のやりとりから6時間後の夕刻。営業を終え、僕は会社に戻った。
 入口の扉を開けると半地下で何やらガサゴソ音がする。野良犬か何かが迷い込んだのかと思って覗き込むと、浜本が東京都推奨のゴミ袋に頭を突っ込み格闘しているではないか。

 保険証…まだ見つかっていないのね? で、ついに前日のゴミ袋まで漁りだしたのね…。とてもこんな人を相手にしていられないので、僕はデスクワークへ。

 10分後。階下から雄叫びが聞こえ、手荒に扉が開かれる。
「あったぞ! あった! 本当にゴミ箱なかにあったよ」

 結局この日、浜本はほとんど仕事をせず保険証を探していたため、まあ社員一同これでどうにか日常に戻れると安心し、良かったですねと声をかけた。もちろん僕も。しかし浜本は厳しい顔で僕を睨みつけるではないか。

「お前、ゴミ箱にあるって初めから言っていたよな…」