WEB本の雑誌

6月26日(木)

 毎晩明け方近くまで続けている「サカつく」バカから一瞬抜け出す。

 なぜなら「サカつく」よりも面白い本に出会ってしまったからだ。それがまたサッカー本というのが僕らしいといえば僕らしいのだが…。

 その本を紹介する前に2003年上半期のサッカー本出版状況に触れておきたい。

 昨年はワールドカップイヤー、それも自国開催ということで、サッカー本が大量に出まくった年だった。しかし、中味はかなり間に合わせのものが多く、安直本や水増し本、乱造本ばかりで、とても推薦できるような本が見つからず苦労した。

 ところが今年になって、サッカー本は過去に例を見ないほどの豊作シーズンとなる。例年ならサッカー本大賞間違いなしの有力作が、ここ半年ですでに3冊も出版されているのだ。そちらをまず紹介したい。

◎『山本昌邦備忘録』山本昌邦著(講談社)
トルシエ監督時代、コーチとしてチームに帯同していた山本氏が、あのワールドカップの興奮の内部で、チームがいかなる状況だったのかを克明に描く。トルシエの異常さと、それでもW杯に出場するために言うことを聞かざる得ない選手達の苦悩が赤裸々に綴られている、まさに衝撃の1冊!

○『ナノ・フットボ-ルの時代』サイモン・クーパー著(文藝春秋)
ただいまサッカーを書かせたらNO. 1のライター。とにかく辛口、しかし本物。日本じゃ「様」など付けられ、祭り上げられているベッカムが、ヨーロッパではどのように扱われているのか? 本物による本物のサッカー批評。

▲『ミスターレッズ 福田正博』戸塚啓著(ネコ・パブリッシング)
これはレッズサポ必読の書である。だからかなり個人的な趣味でしかないかもしれない。しかし涙なしに読めないし、読後、一段と福田を愛してしまうのは間違いない。福田の歴史=レッズの歴史。こんな選手はもう出てこないだろう…。

 ところがところが、この大賞級の3冊を、マラドーナの5人抜きのような華麗さと力強さで抜き去り、ゴールネットを揺らしてしまう<超弩級>面白サッカー本が出版された。

『狂熱のシーズン ヴェローナFCを追いかけて』ティム・バークス著(白水社)

 本書は、その副題にあるとおり、セリエAの(今はセリエBにいるのだが…)ヴェローナFCを、作家であり何よりもヴェローナサポである著者が、一年間に渡ってホームもアウェーも全ての試合を追いかけた観戦記である。

 何がスゴイって、まずクルヴァ(一番熱く応援する場所)で見続けるってことだ。(一度だけチームに帯同して取材するが、そのときすぐクルヴァに戻りたくなる)これがもし日本の作家であれば、出版社に用意されたメインスタンド中央の椅子にどっかり座って、偉そうに観戦記を書くことだろう。

 ところが、しかし、この著者は本気になってクルヴァで興奮しているのだ。チームの不甲斐なさに怒鳴り、怪しい審判の判定にブーイングし、もちろん敵チームの選手やサポーターを罵る。作家である以前にサポーターなのだから当たり前といえば当たり前。まさに本物のサッカーバカ。

 おまけにそのヴェローナFCのクルヴァがスゴイ。僕は海外サッカーにあまり詳しくないので、これは本書を読んで初めて知ったことなのだが、ヴェローナFCのクルヴァはイタリア国内でも鼻つまみの悪者なのだ。南への罵倒、人種差別コール。読めばわかるが日本人なら1歩どころか100歩くらい身を引いて、そのまま家に帰り厳重にカギをしたくなるようなコールをする。そのコールの凄さはひとつひとつが衝撃的だ!

 しかし、そういうとんでもない集団の近くにいて、しかもサッカーに熱くなっているにも関わらず、この著者の考察は鋭く冷静だ。それはサッカーに対してはもちろん、社会に対しても、政治に対しても、人間に対してもである。一見人種差別でしかないようなコールの奥に潜んでいるものを的確に指摘したりするその鋭さには思わず感服してしまう。

 今までニック・ホーンビィの「ぼくのプレミア・ライフ」(新潮文庫)がサッカー本のオールタイムベスト1だと考えていたのだが、それを超える衝撃の1冊。

<まさにサッカーバカによる、サッカーバカのための、サッカーバカの本>

 とにかく、このようなたぶん売れないであろう本物のサッカー本を翻訳・出版してくれた白水社に深く感謝!もしかしたら『キャッチャー・イン・ザ・ライ』が売れたから出せたのかもしれない…。それなら村上春樹氏にも感謝しなくては。

 白水社、アレッ!
 村上、アレッ!