WEB本の雑誌

3月16日(水)

「すぎえ~!」

 パーテーションに仕切られた禁断の社長スペースの奥から社長の呼ぶ声。これでも一応体育会系の従順な僕は、すぐに駆け寄っていく。

「本屋大賞の対象作品というのは国内のオリジナルの小説だったよな」
自分たちで作ったルール。いまさら何を確認しているんだと思いながら頷く。

「だったら今月の新刊『純情ぴかれすく』中場利一著は対象になるわけか?」
「そうですね…」
「そうか! うちの会社で対象になりそうなのはこの本だけだから、今年は頑張ろう」
「頑張ろうって何がですか?」
「だからこれからお前は営業に行って書店員さんに会う度に、来年の本屋大賞は『純情ぴかれすく』ってつぶやき続けろ。毎回毎回だぞ。そうしたらサブリミナル効果もあって投票してくれる書店員さんが出てくるだろう」
「何をいっているんですか…。そういうことをやっているN賞に反発して作った賞じゃないですか」
「杉江、わかった。『純情ぴかれすく』がもし本屋大賞をとって20万部を越えたら1ヶ月みんなで休もう。それでいいな!」

 社員一同聞き耳を立てていたようで、休みと聞いた瞬間「わぁー」と歓声があがった。

 まったくこいつらはアホだ。1ヶ月の休みより金をもらえ、金を。20万部×1600円をかけてみろ。うちくらいの会社でこんな売上あがったら大変だぞ。

 うー、それにしても恐ろしい社長だ。サブリミナルで本屋大賞を狙えっていう発想も恐ろしいし、それで儲けたとしても一切社員に金を払う気がないなんて。こんな会社にいて良いのか…。