WEB本の雑誌

4月8日(金)

 本屋大賞と違って、推定二人にしか相手にされていないサッカー本大賞ですが、こちらはサッカー&サッカー本バカの僕が、年末の「本の雑誌」のスペースを有効に利用し、独断と偏見で選んでいるものだ。2001年の1月号で初めて開催し(おお! 栄えある第一回目のサッカー本大賞は名著『ぼくのプラミア・ライフ』ニック・ホーンビィ著(新潮社)ではないか!)、すでに5度大賞を発表をしている。

 さて今年のサッカー本大賞は、「2月の時点で決定かぁ!!!! 」なんてこの『帰ってきた炎の営業日誌』に2月10日付けで『アヤックスの戦争―第二次世界大戦と欧州サッカー 』 サイモン・クーパー著、柳下毅一郎訳 (白水社) を大プッシュしていたのだが、いやはや凄いところから絶妙のクロス(本)が上がってきたではないか! オランダのビッククラブ・アヤックスと対するのは、なんと人口たった8000人の温泉町草津である。

『サッカーがやってきた ザスパ草津という実験』 辻谷秋人著(NHK出版 生活人新書)

 いやー、昨日購入し、帰宅時にすでに家族が寝ていたのを良いことにそのまま読み込んだ約2時間。ザスパ草津というチームは当然ある程度は知っていた(3年でJに昇格、選手も温泉で働く、奥野や小島がいた)のだが、そんな表面的な部分ではなく、もっと奥深い、例えば町がどうやってザスパ草津を受け入れたのかとか、あるいは旅館の人々がどう選手を迎え入れたかやサポーターはどうやって誕生したかなんてエピソードが丁寧に描かれていてサッカーバカは一気読み間違いなし。

 特に第二部で書かれるザスパ草津の前身であるリエゾン草津の話はビックリ仰天というか、サッカー魂炸裂の話で思わず読んでいるこちらも「ガンバレ!」なんて声をあげてしまいたくなる話なのである。クラブの母体であったサッカー学校が倒産し、それでもサッカーから離れられない選手たちが協同で部屋を借り、コンビニバイトの選手が持って帰ってる廃棄処分の弁当を奪い合って食っていたというのだ。

 しかも選手が集まらないから試合終了時には試合成立最低人数の8人だったりするときもあったそうで、おまけにいつもコンビニ弁当しか食っていないから試合中に栄養失調で倒れていたりするのである。これ、何も昔の話ではない。2002年ワールドカップの自国に日本中が浮かれていた頃のことだ。うう、新作が出る度、徹夜でやっているサッカーゲーム『サカつく』は破産したらリセットを押せば良いけれど、やはり現実のサッカークラブというのはそうはいかないのである。

 そんなリエゾン草津に、日本一人格者のサッカー選手(杉江推定)奥野らがやってきてザスパ草津というクラブが徐々に出来上がって行くわけだが、こちらも当然困難の連続で、しかしサッカーを愛する人々、あるいは愛し出す人々の協力により、3年でのJリーグ昇格という奇跡が起こるのである。まさにここに描かれているのはJリーグの100年憲章に書かれているようなものなのだ。

 ああ、この本については、もうとことん朝までサッカーバカな人と酒を飲みながらアツく語り合いたい。とにかく素晴らしいサッカー本だ!!! しかもそれがたった680円(税別)。ぜひぜひワールドカップ予選なんてお祭りを騒いでいる隙間に、おらがチームを応援する喜びを伝えるこの本を読んでください!! 前にも書いたがおらがちーむを応援することこそが、日本代表を強くする第一歩なんです!! もしおらがチームがないなら作りましょう。

 それにしてもNHK出版! ここは素晴らしい写真集『木曜日のボール』近藤 篤著 やぴかぴか頭の審判の自伝『ゲームのルール 』ピエルルイジ・コッリーナ (著)や同じく生活人新書で『国見発サッカーで「人」を育てる』小嶺 忠敏著なんてのを出していてサッカー本バカにはたまらない出版社なのだ。たぶん誰かサッカーバカな編集者がいるのだと思うけれど、ぜひぜひ面白サッカー本を出し続けてください。応援してます!!