4月25日(月)
なかなか思い通りにいかないコミック営業を終え、疲れて会社に戻る。そして注文の処理やらデスクワークをしていたら営業事務の浜田が話しかけてきた。
「杉江さん、世界の山ちゃんで良いですか?」
浜田は、いつも会話に前置きがなくて、唐突に結論を言う。ちなみに京都の山ちゃんは友達だけど、世界の山ちゃんは知らない。
「は?」
「いや30日の翻訳文学ブックカフェの打ち上げの会場ですよ」
「ああ、そうか。えっでも、いつものところは? あの忍者屋敷」
「あそこは土曜日休みなんです、で池袋は土曜日でも結構飲み屋が混むんで、予約しておきたいんです」
なるほどなるほど、しかしその飲み屋の予約と世界の山ちゃんがどう繋がるのかわからない。
「杉江さん! 世界の山ちゃん知らないんですか?! 名古屋の手羽先屋チェーンで、超超超有名ですよ」
そうなのか。前の会社で名古屋担当だったのが世界の山ちゃんは知らなかった。いつもウサギ大好きな先輩に、中国産のウサギがいるお店に連れて行かれていたのだ。そんなことより、超を重ねて話すのが似合わない年頃だと思うんだが、それは保身のため言わずにおいた。
「わかんないけど、世界の山ちゃんで良いんじゃない。でもそれってさ、編集の仕事じゃないの? 自分たちで組んだイベントの打ち上げでしょ」
「それはそうなんですけど、あの人たちにはこういことできないじゃないですか。これで放っておいたらどこも予約しないで、その場で適当になりますよ。それで右往左往して、みんなに迷惑かけるんですよ。そしたら結局本の雑誌社が恥をかくんですよ。だから仕方ないじゃないですか。それにわたし、新元さん好きだし。」
何だかなぁ。うちの会社だけなのか、他の出版社もそうなのかわからないけれど、雑用というか「編集以外の仕事」は全部営業の仕事になるんだよな。例えば助っ人の管理及び採用、文房具やお茶等の購入、献本分の発送、飲み会のセッティング、それに本屋大賞の仕事だって…。
そんなことを思って、口をモゴモゴさせていると、浜田に先回りされる。
「杉江さんはいつも編集はとか、営業はとか言いますけど、こんな小さな会社でそれを言い出したら仕事が回りませんよ。だから良いんです、わたし、イヤじゃないし」
うう…。
この会社、椎名と目黒と沢野は別格にして、例えば僕や荒木や松村が辞めたっていくらでも替えが効くし、それこそ極端な話、浜本が辞めても仕事は回るだろう。いやこれは誰かを貶めていっているわけでなく、仕事って、というか会社って、現実としてそういうところだ。しかし浜田の替えは効かないし、こいつが辞めたら仕事は絶対回らなくなるだろう。
スマン、浜田、そしてありがとう浜田。