WEB本の雑誌

10月4日(火)

 衣替えどおり涼しくなるのはうれしいが、35度を越える猛暑との差があまりありすぎてとても身体がついていかない。それでも風邪もひかないのは、営業たった一人というプレッシャーからかそれとも「健康保険証を10年以上使っていない」が理由で採用された人間だからか。

 ただいま夢中で読んでいるのが、ちょうど未来の世界がもっと高温化し、炭素を基本にした経済が出来、東京はCO2削減のため、品種改良された翠に覆われ、その上に新らしい東京が建造され…って、この文章を読んでいる人もまったく理解できないだろうけれど、読んでいる僕自身もイマイチ理解できないまま、それでも信じられないくらい面白い『シャングリ・ラ』池上永一著(角川書店)である。万人受けする小説ではないだろうけれど、とにかく今のところ個人的に今年のベスト1独走であった『告白』に迫る面白さ。ああ、仕事なんてしている場合でない。

 しかし本当にサボると家族が路頭に迷ってしまうので、ここはグッとこらえ『作家の読書道』の見本を持って取次店廻り。大阪屋さんや太洋社さんで「あっ良い本ですねー。装丁もキレイだし」なんて言われ、思わずうれしくなってしまう。売れてくれるといいんだけど。

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 先日とある飲み会で出会ったコミック担当の書店員さんの話が、ずーっと頭を駆け回っている。

 コミックの仕入は、書籍の仕入より雑誌の仕入に似ているようで、出版社が指定部数書店さんに納品するような出版社ランクではなく(出版社ランクが使える出版社は限られているが…)、取次店さんのランクによって配本されているようなのだ。

 そのランクを決定する大きな要因は、販売実績と返品率だそうで、返品率が上がれば配本ランクが下がる。すなわち欲しい本が欲しいだけ入らなくなるそうで、それは書店さんにとって一番恐ろしいことである。

「だからですね、新刊一覧を見て全部の注文部数を決めるのに10時間くらいかかるんですよ。過去のデータを見て、いろんな情報を仕入れて。返品率15%以内を達成するためには、ほんと無駄のないようにしないと無理なんですね。常に今月何箱返品したか、あの本がちょっと多かったとか頭で計算してます」とその担当者さんは話される。

 例えばその返品率が20%を越えたらひとつ下のランクに下がるそうで、そうなると前述したとおり50部欲しかったコミックが40部しか入荷しなくなり、それは結局10部の販売ロスになり、それはまた10人の読者がお店から離れていくことに繋がるという。

 またコミックはとにかく発売日が大切だそうで(売上は日が経つにしたがって半分半分半分で下がっていくと話されていた)、この飲み会の日はちょうど人気コミック『ベルセルク』三浦建太郎著(白泉社)の発売日だったのだが、この担当者さんは朝7時に出社し(開店は10時)、お客さんが見逃すことのないよう各場所に平積み展開の準備していたそうだ。

 うーん、シビアだ…。

 もちろん文芸書はコミックの巻数ものように前回実績がそのまま使えるわけではないし、発売日にきっちり売れるような状況じゃないかもしれないが、「仕掛け販売」の名の下に、単品大量発注、大量返品が多くなっていると聞くし、しかも人出不足のせいか新刊納品された本が、そのまま台車の上に下手すると半日くらいお置きっぱなしになっている書店さんもあったりで、いやよく考えたら書籍には明確な発売日もなく、何だか未だに頭のなかをグルグルとこのとき交わした会話が廻っているのである。だから何だというわけでもないんだけど…。