WEB本の雑誌

7月12日(水)

 実はこの仕事を辞めたら漁師になろうと考えていて、そのためにポツポツと漁師関係の本を読んでいる。そんななか見つけた『飽食の海 世界からSUSHIが消える日』チャールズ・クローバー著(岩波書店)は、そんな甘い気持ちを打ち砕く衝撃の1冊であった。

 それまで読んできたどの漁師本でも「魚が採れなくなった」という、まるで出版業界の「本が売れなくなった」という同種の嘆きが聞こえてきたのだが、それは僕が考えているような採れない=乱獲と資本漁業(もっと大きな漁業)の採れないではスケールがあまりに違うことを知る。まさに一網打尽。

 しかもいわゆる毛の生えた動物に関するほど海洋生物のデータも保護も進んでいないため、今、日常的に食べている魚(クロマグロや大西洋タラ)が実は「絶滅危惧種」だったりして、おいおいトキを食べているようなもんだったのかと思わず吐き気を憶えたほどだ。

 そして漁業によって殺される海洋生物のうちで、実際に人や動物の食べものになっているのは捕獲全重量の10%足らずだそうで、残りの90%は雑魚として捨てられている(殺されている)というだから、もう目から鱗というか、無知を恥じる以外ない。その雑魚のなかには珍しい海洋生物も多数紛れ込んでいるそうで、この本を読むとなぜエチゼンクラゲがあれほど大騒ぎになったのか?とか、最近スーパーの魚売り場に聞き慣れない名前の魚(深海魚)が多いのはなぜ?なんて疑問が解ける。しかし解けて満足するのではなく、恐ろしくなる一方だ。まさにこの本は海版『沈黙の春』である。

 こういう本は、ついつい目くじら環境本でしょう?なんて勘ぐってしまうが、著者はイギリスの『デイリー・テレグラフ』紙のベテラン記者で、もっと冷静で、批評的だ。だからこそ読後は背筋が凍えるほど冷たくなってしまう。

 とにかくひとりでも多くに人に読んで欲しい1冊。そして今年のノンフィクション・ベスト1間違いなし! 「本の雑誌」も小説ばかり取り上げず、こういう硬派な、それでいてページをめくるのがやめられなくなる本もどんどん紹介して欲しいぞ…って僕が紹介すればいいのか…。