11月22日(水)
『二人目の出産』の見本が出来上がった翌日(11月15日)、著者の安田ママさんがいる松本に、8時ちょうどのあずさ2号(現在は5号)に乗って会いに行く。
自分が企画した本が出来たときには、やはり著者に手渡しし、感謝の気持ちを伝えたい。しかしサイン本作成分も含め40冊はちょっと重かった。
その車中、本も読まずに、ここ最近ずーっと思っていたことをじっくり考える。
入社して10年、いつの間にか営業だけでなく、企画に、広告に、WEBに、と担当は雪だるま式に増えている。これで経理をしたらたぶん杉江商店になるのではないかと思うけれど、それにしたって僕の仕事って何だ?
いや僕の仕事は正真正銘、絶対に営業マンだ。その部分がこうやっていろんな仕事によって疎かになってくるのがどうしてもツライ。ツライというか、哀しい。なぜなら僕は営業がしたくてここにいるのだから。たぶんきっと多くの書店員さんも僕と同じようなジレンマを棚を前にして感じているのだろう。棚を触りたいのに、その時間がない、いや会社は棚なんて触るな、というと。
しかしやっぱり自分の仕事をきっちりこなしたい。20代のときのように書店さんを駆けずり回って、ひとつひとつしっかり関係を築きたい。怒られたって、失敗したって、そこから人と人の繋がりができればいい。そう、その結果が、こうやって安田ママさんとの関係になっているのだから。
そう気持ちが落ちついた頃、列車は松本駅のホームに滑り込む。
列車を降りると、東京よりずっと冷たい風が、僕の身体に吹き付けてきた。
顔上げると、頂きが雪化粧された山が壁のように立っていた。
★ ★ ★
その日以来、営業以外の仕事を極力排除し、朝から晩まで書店さんを駆けずり回っている。
どうしたって体力は落ちているから電車の座席に座ると大きなため息がでるし、久しぶりの孤独感に打ちのめされそうになる。
でも充実している。そして楽しい。