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第8回

 今回のお題は『仕掛け販売』。
 ここ数年目に付く拡販方法ですね。単一銘柄を、1面だけでなく、2面3面、10面20面、ヘタすりゃ100面200面、どうだ驚いたかとばかりに平積み、まとまった数の売上げを短期間に上げようとします。

 最初に多面でドカッと積んだ現場を見たのは、新入社員の頃、当時の村上春樹新刊『羊をめぐる冒険』。40面くらいは敷き詰められていました。そのときは、ああ、ストッカーに入りきらないんだな、気の毒だなーと思いましたよ。ばかですね。
 それ以降はあまり見かけなかった気がしますが、数年前からグっと増えてきました。


 もちろんワタシも積んできました。モリモリ歴のスタートは渋谷店で、およそ10年前。それまでは考えもしなかった。
 印象に残っているのは、95年森永博志『ドロップアウトのえらいひと』(東京書籍)、96年ア-ヴィン・ウェルシュ『トレインスポッティング』(青山出版社)、そして97年阿部和重『インディヴィジュアル・プロジェクション』(新潮社)や98年中原昌也『マリ&フィフィの虐殺ソングブック』(河出書房新社)、2000年『マンモス創刊号』(ニーハイメディア)あたり。いかにもあの頃の渋谷らしい。ま、今もあまり変わらないかも知れないけど。

『ドロップアウトのえらいひと』は、ついこの間までいた吉祥寺店でも今だに平積みしていましたから、ある世代には古典、バイブルですな。『トレインスポッティング』は、お店の真前の映画館で上映されたからでもありますが、若者だった当時の取次担当者にイギリスでの話題を教えてもらったりで、当時のウブなワタシには破格の4ケタ実売。

 そして『インディヴィジュアル・プロジェクション』から始まったJ文学というか渋谷系文学。渦中で楽しかったですねー。今ではみな“中堅”作家です。

 渋谷を出る間際に並べた『マンモス創刊号』は、本と同じ大きさで厚みのあるオマケ箱付きで相当な嵩。店頭を床から積み上げてバックヤード占拠を解消しました。飛ぶように売れましたから、そんな心配は無用だったのですが。

 当時は、しまっといちゃもったいないということで積みました。インパクトもあり、なにしろ新鮮。倉庫も助かる。段々進化?してきて、『仕掛け販売』と名付けられちゃって、“売れちゃう”からというより“意地でも売っちゃうぞ”というキモチが透けてきた気が。

 確かに多面で積んであると、お!なに?と思いますね。なんでこんなことになってるんだか、理由を探ろうとします。つまり、こんなに仕入れているってことは売れてるってことだ→もしかしたらコレを読んでいないと遅れちゃっているのか?→よ、よし、買っちゃうぞ。

 すれっからしは、こんなに仕入れているってことは売ろうとしているってことだ→もしかしたらコレを読んでいないと遅れちゃっているのか、と思わせるためかな?→引っかかっちゃいけねぇ。

 ひとつの銘柄をなるべく多くのお客さまに買っていただこうとする心持ちは否定はしないのですが、そればっかりではなんとなくしっくりこなくなってきたのも確か。
片方で、商品である以上旬があるのも事実でしょうから、売り時買い時をきちんと打ち出すのも使命。わかり易い売場には不可欠な展開方法であることに変わりありません。

 本は、たくさんの銘柄があるということが特徴でもあるのだから、これを楽しまなくちゃ損。つまるところ、両方の側面をバランスよく配置して、楽しんでいただける売場を作らなくては。そしてそれをワタシたち自身も楽しまないとね。

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