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「坂の上のパルコ」 第4回第3話

「矢部的書店仕事術」

片野純子(元・パルコブックセンター渋谷店)×矢部潤子(リブロ池袋本店)

(3)新刊台を触るのが恐い?!

矢部
その頃って私ひとりで文芸書やっていたんだっけ?
片野
矢部さんとKさんですね。
矢部
だんだん人が減ってきたんだ(笑)。
片野
お掃除は手の空いているバイトさんがやるとか変わってきて。
矢部
常にお掃除という仕事はあったんだよね。必須の仕事だった。
片野
レジが暇なら掃除してよみたいな感じでしたね。当時はできるアルバイトさんが多くて、言わなくてもみんなやってくれてました。
矢部
わざわざ言った覚えはないもん。
片野
パルコ渋谷とかいいながら、意外とみんな体育会系で、言われれば言われるほど負けるわけにはいくもんかって(笑)。
矢部
ははは。怖かったかもね。
片野
私が入った頃、本当にアルバイトさん怖かったですもん。別にいじめられたわけじゃないんですけど、正統派な怖さというか、アルバイトさんの方がずーっとわかっているんですよ、なんでもかんでも。
矢部
今はなかなかそうもいかないよね。昔はフリーターと呼ばれる人が多かったんだ。それを言うなれば便利に使っていたような部分もあるんだけど、アルバイトさんがみんな長かった。
片野
長くて、よく知っていて......。それは本だけじゃなくてお客さんのこともなんですけど。だからアルバイトさんによく聞いてましたよ。「お客さんに聞かれたこの本なんですけど......」って。
矢部
「あそこにあります」なんて、ズバリ答える。
片野
でも渋谷店にいる間は退職しようなんて思ったことはなかったですね。
矢部
退職は池袋本店に異動になってから?
片野
そうです。池袋本店はもう別世界でした。調布店や渋谷店の私には大きすぎました。渋谷店がちょうどいい大きさでしたね、自分には。
矢部
あれくらいがちょうどいいよね、ワンフロアで見渡せて、250坪くらい。
片野
池袋本店で芸術書の担当になったとき、売り場が2階だったんですけど、そこの階の本しかわらからないんですよ。なんの新刊が入っているのか知りたければ、自分で文芸書の売り場とか見て回らないといけない。例えば文芸書でも芸術書っぽいものとかあるかもしれないじゃないですか。でも行かないとわからない。
矢部
仕入れで振りわけられちゃうからね。
片野
そうなんです。それを見に行くのが、日常の業務もあるから、なかなか大変なんですよね。でも新書も文庫も文芸書もチェックしたいんですよ。芸術書に引っ張って来られる本は引っ張りたい。でもフロア移動して見に行って、その間に芸術書の売り場で何かあるかもしれない。なんていうのか店全体を把握できないという規模の大きさに目眩がしました。でもやっぱりあの新刊台ふたつは絶対見ないと行けないと思っていたんですよね。
矢部
そうなんだよね、何でも現物にあたらないとダメなの。本を見ないとさ。私がカタノで覚えているのは文芸書の新刊台で、私が休みの日に並べておいてくれるんだけど、それを翌日私が並べ替えているわけ。この本はこっちの隣で、こっちはあっちって。それをカタノが脇で見ていて「何が違うんですか!?」なんて大きな声で驚いていたのが記憶にあるな。「エッ? エッ? ウーン」なんて(笑)。
片野
自分としてはしっかり並べていたつもりだったんですよ。
矢部
アルバイトさんに「何が違うと思う?」なんて聞いちゃって、そのアルバイトさんも「わかりませんね~」なんて(笑)。本人たちからしたら、それしかないって感じで並べているからね。
片野
一生懸命考えてはいたんですよ。
矢部
そうそう、それで勢い余って聞きに来るんだよね。「矢部さん、何が違うんですか?」って。「こっちと関わりがあるから一緒に並べてみたんですけど」なんて説明するんだけどね。でもうまく言葉で言えないんだけど正解じゃないんだよね。
片野
新刊台を触るのが怖かったのは覚えてますね。
矢部
それでさ、次の日とかにまた新刊台をいじっていると「今度はなんですか?」って寄ってくるの(笑)。
片野
私、最悪ですね。
矢部
そんなことないよ。興味があったんだよ。
片野
私は結局サブ的な位置が好きなんですよね。船頭になってというのは無理なんです。だから矢部さんからブーメランを貰って、チェックしたりするのが一番楽しかったです。
矢部
もうひとりのKさんは掃除がキレイだったね。
片野
キレイでした。平積みの整理って、しばらくやっていると積んだ本を手の感覚で真っ直ぐにできるようになりますよね。
矢部
手を添えるだけで真っ直ぐになる。
片野
いつの間にかできるようになっていた。
矢部
掃除ってね、させてみないとわからないんだよね。教えていて気付いたんだけど、掃除をさせてね、「終わりました」って報告があるんだけど全然キレイになっていない人がいたのね。これは見に行って一緒にやってみて、キレイの基準を合わせる必要があると。それから一緒にやって、こっちが思っている掃除というものを教えるようにしたんだよね。
片野
ちゃんと真っ直ぐにすると保ちがいいんですよね。うまく言えないけど......。
矢部
乱れないんだよね。
片野
そうなんですよ。そこに一手間かけておくと全然違うんです。例えばお客さんが一番上じゃなくて2番目の本を取っていったとしてもそんなに乱れないんですよ。
矢部
割れ窓理論よ。乱れててもいいや平台だとお客様も乱れても気にならないけど、キレイにしておくとお客様もキレイに取ってくれる。
片野
なんかたまに書店とかに行って10冊積んである一番下だけこっちを向いていて、あと9冊が反対側とか向いていたりすると「ウソ!」なんてビックリしますよ。どういう意味だよ!って。昔は直していたんですけど、今はもう我慢することを覚えました(笑)。
矢部
辞めて5年だっけ?
片野
それくらいですね。でも帯とかスリップを直したくなるんですよ。精神安定剤になるんですよね。

(つづく 次回更新は1月7日)

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