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「坂の上のパルコ」 第4回第4話

「矢部的書店仕事術」

片野純子(元・パルコブックセンター渋谷店)×矢部潤子(リブロ池袋本店)

(4)あきらめない

矢部
カタノが辞めたこの4、5年で書店の仕事は様変わりしてきたよ。
片野
要因はPOSかな?
矢部
まあそうだよね。POSが入って、数字に対する見方が違ってきたね。
片野
私が書店員だった後半のときに自動発注になって、画面見ながらいらないやつはチェック外してっていう作業だったけど、あれって、私の思ってる本屋の仕事じゃないなって感じがしたんですよね。
矢部
カタノが最後の世代かもね。
片野
スリップを見て仕事をしたということですか?
矢部
そう。今やってる子たちも片野さんくらいの世代がいないから、伝わらないんだと思う。
片野
スリップがうんぬんとか。
矢部
スリップはこういうところのメリットがあって、機械任せにはこういうところにメリットとデメリットがあってとか。私みたいなスリップ命みたいな世代の書店員と間をつなぐ話ができる人が少ないんだと思う。
片野
両方わかってるといいかもしれませんね。
矢部
POSにもやっぱり便利なところはあるわけだから。
片野
即発注してくれますもんね。
矢部
売り上げベストだってパッとわかるしさ。でもここは行き届かないからこうやってよ、っていう世代がね、少ないのよ。
片野
えっ? でも矢部さんは今も売り場にいるんですよね?
矢部
これがさ、いるんだよ化石のように(笑)。報告書みたいな紙仕事は「申し訳ありません、できません」って。そういうのがまったく出来ない。ごめんなさい。
片野
向き不向きがありますから(笑)。
矢部
売り場にいるのが、一番生の情報が入るんだと自分では思ってるんだけどね。
片野
絶対に棚の近くにいた方がいいですよ。離れると一気にわかんなくなりますよ。じゃあ矢部さんは、今も下の人に教えているんですか?
矢部
教えないと自分が大変だからね(笑)。
片野
昔と変わらないですね。朝礼とか懐かしいですよ。毎日、早番の人たちが集まるんですけど、必ずなにか紹介しなくちゃならない。イチオシとか、これが売れてるけど在庫がないとか。
矢部
昨日の新刊で、やっと出たとかね。
片野
棚はあそことあそこにありますから、お客様に聞かれたら誘導して下さいって。あっ遅番も事務所でやってましたね。帰りは帰りで終礼もやるんです。アルバイトさんだけ先に帰すために。そうでもしないと帰るタイミングがわからないから。
矢部
じゃあ解散!って。
片野
社員はそれぞれ自分の仕事を済ませて帰るけど、でも矢部さんと一緒に帰ったり、飲んだりした記憶はないですね。矢部さんは閉店した後に品出しするんですよね。
矢部
なんか出してたんですね(笑)。
片野
当時は10時開店で20時半閉店で、最後の最後で21時になった。で、朝来ると棚がキレイになってるんです。それは矢部さんが残ってやってるから。でも私にやれとは言わない。
矢部
そんなのしなくていいんだよ。キリがないもん。なんか覚えてるのはね、上の映画館でやっていた映画で本があると一応お膝元だから売れるだろうと思って、映画を担当しているパルコの事業部の人が、映画のチラシやポスターをいっぱい持って来てくれたんだよね。それを夜にね、平台をどかして貼ってた覚えがあるなあ。
片野
ありましたね。
矢部
なんか黄色いポスターだったんだよ。斜めがいいかな、前がいいかなって。夜10時にセロテープを持って、悩んでいたのを覚えている。
片野
もうひとりいたKさんがすごいセンスのある人で、いろいろ頼みましたよね。
矢部
美大出だったんだよね。
片野
うまいんですよ。材料を渡して、「これなんかしてくれる?」とかいうと「はーい」とかいってキレイにやってくれる。ブライスって変な人形があって、その本が売れてから、パルコのバーゲンかなんかのキャラクターになったんですよね。それもパルコが拡材くれて、Kさんがキレイにディスプレイしてくれました。
矢部
ああいうのがパルコっぽかったね。
片野
そうですね。決しておたくとかサブカルとかいう感じじゃないんですよね。言葉で説明出来ないけど、これはあり、これはなしって、匂いでわかるんです。日々新刊配本で来た本を、これはありって思ったら、もう出版社に電話して。で、矢部さんに教えて貰ったんですけど、やたらに頼むなと。例えば良いと思ったら、どこに何冊、そこに何冊積むから全部で何冊って感じで頼みなさいと言われてました。売れ行きが良いから100冊とか、30冊とかどんぶり勘定じゃなくて、あそことあそこに置くから15冊下さいって。矢部さんは、あまり在庫持たないタイプですよね。
矢部
バックヤードはほとんど空だったからね。
片野
在庫持たないために、例えば三カ所に展開するなら、この厚さだったら平積みで7冊、面陳で二面にするから6冊、あとは棚差し1冊だから14冊とか。そういう頼み方。そこで20冊頼んだとして、余った6冊をどこに置くんだって話になる。ストックにしまってもわかんなくなる。確かに私はすごい記憶力が悪いから、ストックにしまうとわかんないんです(笑)。
矢部
よほど売れるのが早ければ別なんだろうけど。
片野
そういう展開の仕方をしなきゃいけないって言われて、それは池袋本店に異動になてからもずっと守ってました。
矢部
もちろんお金もかかるからね。
片野
今でも私たちに教えたように教えているんですか?
矢部
うーんとね、一時期諦めちゃったんだ。これはもう仕事量的に無理かなって。今の売り場の子は本当に忙しいからね。レジが忙しい、新刊が多い、人がいないとか、掃除とかよりももっと重要なこといっぱいあるように見えたのね。でもね、やっぱり言わないとダメだと思い直したの。じゃないと今の子たちは一生お店をキレイにしたり、平台や棚の並べ方も知らずに、すぐ偉くなっちゃうから。
片野
基本ですもんね。
矢部
だから、今、朝だけ来るアルバイトさんとかにも、文庫の新刊台を責任もってキレイにさせたりしている。
片野
ああ、いいですね。私、朝だけバイトしたいです(笑)。
矢部
すっごく言うの。何度も何度もしつこくね。だから今、ちょっとづつキレイになってきたと思う。
片野
売り行きも違いますよね、棚がキレイだと。
矢部
そうなることを信じてるね。

(了)

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