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「坂の上のパルコ」 第2回第2話

「パルコ渋谷店に行けば、なんとかなる」

田丸慶(河出書房新社)×矢部潤子(リブロ池袋本店)

第2話 モノとしての本

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田丸
J文学じゃないですけど『オイスター・ボーイの憂鬱な死』ティム・バートン著(河出書房新社)覚えてますか?
矢部
覚えてる、覚えてる。
田丸
三千円近くする本が、バカバカ売れたんですよね。
矢部
あれはさP-BC渋谷店と一緒にあった洋書のLOGOSで、原書が売れていたのは知っていたんだ。だから売れるんじゃない?なんて話したよね。でも出てきたのが思ったよりも可愛くて。
田丸
そう、頭が貝殻の可愛い感じのキャラクターが描かれていました。
矢部
文芸書と芸術書で展開していたね。万年平台だったなあ。
田丸
その本の編集をしたのがアップリンクだったんですけど、重版の連絡をしたらビックリしちゃって。「本当に大丈夫なんでしょうか?」なんて。でもほとんどPーBC渋谷店で売っていたんですけど(笑)。
矢部
そういう本がなぜかいろいろあったんだよね。ここでしか売れないって。
田丸
そういえば、矢部さんは装丁に厳しかった。
矢部
いやね、お客さんに若い人が多いから、本を手にとるキッカケとしてというか、ようするにモノとしての本というか、手触りっていうの? そういう違いで買ったり買わなかったりするんじゃないかなって考えていたんだよね。
田丸
まったくそのとおりだと思います
矢部
だから装丁とか、判型とかとても気にしていたよ。
田丸
河出書房では当時、常磐響であり、ミルキィ・イソベであり、そういうデザイナーさんに装丁をお願いし、ひとり暮らしの男の子の日常を切り取ったような写真を使っていたんです。
矢部
何気ない雰囲気の写真だった。
田丸
全体的にもそういう流れがありましたね。
矢部
その後に出て、大ベストセラーになった『世界の中心で、愛を叫ぶ』片山恭一(小学館)なんかも、確か編集者から装丁が出来上がったんで持っていきます、なんて言われた記憶があるよ。だからあの辺も流れの中なのかもしれないね。
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田丸
モノとしての本。なんか持っていたらかっこいいよね、みたいなところがあったかもしれないですね。あの頃「ジャケ買い」なんて言葉も出だしまして、河出書房も装丁には力を入れてました。だからこそ『コピーバイブル』宣伝会議コピーライター講座編(宣伝会議)。あの木の皮みたいな装丁の本が、P-BC渋谷店のベスト10に入っているのを見た時、すごいのが出てきたな、なんてプレッシャーを感じましたね。負けてられないな、なんて。
矢部
新刊案内のときに本当は装丁を見せてもらいたかったんだよね。P-BC渋谷店で売れるかどうか、というのを見極めるために重要だったんだ。なんか引っかかるものがあったときには、結構しつこく営業マンに聞いていた。
田丸
こっちも矢部さんのところに行く前に編集部からいろいろ話を聞いたりして、武装してから行ってました(笑)。毎回ビクビクしながら営業に行って、当時だと『西瓜糖の日々』リチャード・ブローティガン(河出書房新社)だとか、やっぱり外文でも、一種独特な匂いのするものが売れていたんですよね。その匂いをタイトルや内容や装丁から嗅ぎ分けていらっしゃいました。
矢部
そうそう、『アレクサンドリア四重奏』ロレンス・ダレル(河出書房新社)とかね。両方とも、今のやつじゃなくて古いやつ。ビニールのカバーがかかっているやつね。でも売っているうちにどんどん品切れていっちゃったんだよね(笑)。
田丸
バカですよね、うちの会社は(笑)。今、考えたらっていうか、あのときに戻れるなら、ぶん殴ってでも<河出海外小説選>をしっかり重版して......。
矢部
そうだよね。今また売れているわけだから......。
田丸
そうなんですよ。池澤夏樹の『世界文学全集』が好調なのも、やっぱり当時からずっと読者がいるってことですからね。

(つづく 次回更新は4月22日)

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