『阪急電車』

阪急電車
  1. 阪急電車
  2. ラットマン
  3. 新世界より
  4. メフェナーボウンのつどう道
  5. オブ・ザ・ベースボール
  6. セ・シ・ボン
  7. 夏の涯ての島
佐々木克雄

評価:星4つ

 どんな人にもドラマはある──それを教えてくれる一冊。
「ドラッグ、妊娠、恋人が病死」でもなく、「次々と殺人事件が起こる」でもない。阪急今津線に乗る、フツーの人々が主人公。だからこそ、彼らの一挙一動がごく自然に、すんなりと読み手の中に入り込んでくる。婚約者を寝取られた翔子さん、まっすぐに生きてきた時江おばあちゃん、暴力彼氏に悩むミサ、恋愛若葉マークの圭一くん&ゴンちゃん、進路に悩む女子高生えっちゃん……みんな悩んでいて、みんな優しいから、応援したくなっちゃう。しかも彼らは他の章で脇役として出ているから話が繋がっているし……巧いなあ、有川さん。
 それと本を側面から見て気が付いたのだが、真ん中あたりに黒いタテ筋が一本──このページで今津線(=物語)が折り返しているなんて……巧すぎるなあ、有川さん。
 年に数冊現れる「出会えてよかった本」。家族や親友に薦めたい。

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下久保玉美

評価:星4つ

 阪急電車に乗りたくなりました。
 片道15分の電車内でも、多くの人が乗っている以上はその人数分のドラマがあって然るべきで、本書はそんなたまたま同じ阪急電車に乗り合わせた乗客数人にスポットライトを当てて、そのドラマを描いています。そんなドラマの中でも一番面白かったのは、復讐のために元恋人の結婚式に出席した女性翔子の話。この部分だけ何回も読み返しました。陰湿というよりもむしろ痛快な部類に入る復讐を果たすも、なお心にたまるドロドロしたものの行き場に悩む翔子を助けるのは、同じ車両に乗り合わせたある女性との会話であり、その後翔子は新しくやり直していくわけです。
 電車の行き先は決まっていて、その終着点を変更することはできませんが乗客たちは自身の人生のある部分に乗ることも降りることもできます。そんな乗客たちの乗り降りや行き先を楽しんでいただきたいです。

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増住雄大

評価:星4つ

 イニシャルトークでお送りします。
 Tさんかっこよすぎです。こんな風になれたらいいな。
 KとMのやりとりが可愛すぎる。羨ましい、じゃない。微笑ましい。そういう感想を抱くことに、自分が年齢を重ねてきたことを実感します……。
 Sは最初、怖かった。同じ状況に陥ったとして、そこまでの行動力は私にはない。でも、間違ってなかった、と思う。
 Mいいなあ。私も二週間に一度は図書館に行っているのに、そういうことって全然ないよ。貸し出し担当の受付の人(後から聞いたが、母の知り合いだったらしい)に「○○さんの、お子さん?」って声かけられたくらいだよ。
 Eの話、私も生で聞きたかった。笑いをこらえきれただろうか。大事にされている、と感じるなら、それだけで幸せだろうな。
 Mは人との出会い運がいい。良い出会いは人を成長させる。いや、最悪の出会いもあったわけですが。
 順不同で登場人物たちに一言ずつコメントしてみました。詳細が気になったなら、本書を手にとってみてくださいな。
 なんか頭文字がMの登場人物が多くて、よくわかんなくなっちゃったな……。

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松井ゆかり

評価:星5つ

 “マイ2008年裏ベストワン”最有力候補ー! いや、たまらんな、有川作品の胸きゅん度の高さは。「図書館」シリーズに思い切りはまった自分としては、たいへんに期待する反面、物足りなさを感じる可能性もあるかも…と読み始めた短編集だが、いや、よかった。
 収められているのはどれも10〜20ページの短編、というか掌編と呼びたいような作品である。私は残念ながら乗ったことはないのだが、えんじ色の車体がかわいいと評判の阪急電車の車中の風景が描かれている。個人的には最近車での移動が多くなり電車に乗る機会がめっきり減ってきているのだが、他の乗客を観察するのが電車の中での密かな楽しみという人は多かろう。それをしかし、恋愛ものや友情ものの小説に仕立て上げる著者の手並みの素晴らしさよ!ややベタベタな感は否めないものの、ぐいぐいと読まされる。
 中でも初めて男女交際というものを経験することになる圭一と美帆のエピソードには完全にノックアウトされた。むはー、スタバのキャラメルマキアートより甘いぜ、こりゃ…と思いつつ何度も読み返してしまう自分も相当少女趣味だ。ちょっと照れるわ、だからこその裏ベストワン。

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望月香子

評価:星3つ

 阪急電車の今津線を舞台に、初対面同士の乗客が、突然のきっかけで繋がってゆく物語。電車がただの移動手段ではなく、出会いの場、人生の分岐点の場となり、ドラマティックな展開になってゆきます。
同じ車両に乗り合わせた同士というだけの関係なら、目も合わせず、会話もせずにすれ違うだけというのがほとんど…。しかし、車内での見知らぬ人の会話、行動に反応し、乗客たちの人生は動いてゆきます。
 車内での出会いがきっかけで恋が芽生えたり、恋の芽を摘み取ったり、一大決心をしたり…。どんな人にも普通の人生などはなく、絶えず何かを考え抱え生きていて、普段は覆っているそれが、電車内での出会いによってはからずしも剥がれてしまうところが描かれているのが魅力です。

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