WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【単行本班】2008年3月の課題図書 >『ラットマン』 道尾 秀介 (著)
評価:
「道尾秀介にはダマされないゾ!」と警戒しながらページをめくる。だって「ええっ……この人が真犯人!」てな衝撃ラストを投げつけてくれるんですもん。
作品全体に漂う、ドロリとした雰囲気は相変わらず。青春を失いかけた若者の空虚、退廃が、バンド仲間を通じて滲み出てくるのもイイ。これに密室殺人なる本格ミステリー風味がブレンドされるのですが、推理以前に主人公の姫川が背負った過去の暗さってば、もう救いがないです。それが彼の恋人の殺害に絡みついてくるのだからたまんない。ズブズブ、ズブズブと底のない闇へ引き込まれる感じ。さあ、恋人を殺害した真犯人は誰なのか?
ラットマンの絵のように、物事を思いこみで見ていると真実を見失うことになりますよ──と忠告されているような気がしてならない。実際「思いこみ」がキーになってるし。
でもね、今回は途中で真犯人分かっちゃった。
評価:
あー、すっかり騙されました!
高校時代から組んでいるバンドの練習中におきた事件はいかに行われたか、なぜ行われたのか、が本書の謎の中心となるわけですが「それって謎だったの?」という点が終盤、大きな謎となります。
ホント、騙されました!
最初、こんな感じかな?と思っていたことが結構当たってたことが最後になってわかったのですが読んでいる最中は作者のだましにすっかりひっかかてしまい、いやそれは違うみたい、と思ってしまいました。
騙しはコレだけではなかった!
作者の騙しは最後まで終わらないのです。現在の事件と並行に過去の事件も書かれるのですが、現在と過去との関係、過去の事件のあらましが二転三転。本当は○○は××で△△は〜だよ、と声を大にして言いたいところですがそこはぐっとこらえて、こう言いましょう。
読んで、騙されて!
評価:
うええええい!?
今までの人生であげたことのないような叫びをあげちゃいましたよ。寝っ転がって読んでたけど、思わずガバりと起き上がってしまいました。これは、驚いた。本当に驚いた。しかもそれが……。こんなに綺麗に騙されたのは久しぶりです。
タイトルの「ラットマン」は、ある騙し絵のこと。「思い込み」によって、同じものが別のもののように見える、ということを示します。「思い込み」って、こわいですよね。事実を曲げてしまいます。そんな事実は全くなくても、勝手に予想して納得して、あたかも事実であるかのような気になります。そして、誤解や勘違いが生まれる。
読者が知らず知らずのうちにしている、ある「思い込み」。その「思い込み」が、ある瞬間、ハンマーでガラスを叩き割るかのように、パリーンと粉砕されます。そのときの驚きと言ったら、もう。
読後感も最高。本作は「青春の終わり」を描いた話です。「人が死ぬ」話です。なのに、この、読後の「きらきらした感じ」はなんなのでしょうか。ミステリの傑作だと思います。
評価:
“どんでん返しに次ぐどんでん返し”の見本のような作品。しかも、ミステリーとして謎解きの鮮やかさを備えつつ、心がふるえるような余韻も残すという神業のような小説なのだ。道尾秀介という作家はどこまで読者を驚かせるつもりなのか…。
「ラットマン」というのは心理学の用語で「文脈効果」や「命名効果」というものを説明するのに例に出される絵だそうだ。本書p.62〜説明があるが、要は“自分の心の中にあるものが実際に見えたような気になってしまう”とか“一度思い込んでしまうとなかなか見方を変えられない”とかいうことらしい。すなわち、道尾作品そのものと似ていると思う。著者によって読者はどんどん誤った結論の方へと誘導されていく。しかし終盤、まるでオセロの駒があっという間にひっくり返るように、我々の目にまったく違ったものとして見えてくるのだ。主人公の姉、父、そして時が経ち、恋人までが亡くなった。しかし、彼らの死の真相は思いもかけないものだったのだ…。
率直に言うと、主人公の恋人がためらいもなく中絶を選ぼうとする(主人公もそれを止めないし)くだりなどは共感できなかったが、それを差し引いても唸らされる作品。脱帽。
評価:
アマチュアバンドで活動している主人公の姫川亮。この主人公の生い立ち、幼いころに起こった事件などの過去が、現在に起こる事件と重なり、物語はどんどん複雑に絡まってゆきます。
後半の真実が見えてきそうなところは、もう溜め息ものです。
主人公の周りで起こる謎の死、猜疑心、肉体関係など、すべてといっていいほどが意味深で、時おりちりばめられる歌詞が、さらに不穏な空気を出す…。
主人公とその周囲の悲しい過去と、それを背負い生きてゆく様子に、何らかの希望を見出したかったと思うのは、わたしのわがままかもしれません。
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