『新世界より』

新世界より
  • 貴志 祐介 (著)
  • 講談社
  • 税込1,995円
  • 2008年1月
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  1. 阪急電車
  2. ラットマン
  3. 新世界より
  4. メフェナーボウンのつどう道
  5. オブ・ザ・ベースボール
  6. セ・シ・ボン
  7. 夏の涯ての島
佐々木克雄

評価:星4つ

 タイムマシンがない限り、未来は想像の世界にしか存在しない。それも今を生きる現在があってからこそで、現在と未来を結びつけるこの作品は、途方もない時間の経過具合を極めてリアルに描ききっているから、スゴイ。だからこそ結末のリアルが、コワイ。
 私論だが、SF長編の勝負ドコロは、登場するキャラ、場面設定、抽象的な造語などが読み手の中にイメージできるか否かにあると考える。本書に出てくるバケネズミ、神栖66町、呪力などは主人公の視点で細やかに語られており、否が応でも浮かび上がるから、勝ちです。
 前半は学校生活を送る少年少女たちの冒険譚で、つい「ハリポタ茨城版?」と穿った見かたをしてしまった。スミマセン。後半の「人間vsバケネズミ」でぶっ飛んだ。これは現代人に警鐘を鳴らす、かなり深いフィクションなのだ。面白半分に読んだらケガするぞ。
 できますれば、大友克洋監督のもとでアニメ化してほしいなあ。すごく見たい。

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下久保玉美

評価:星5つ

 前作の『硝子のハンマー』が本格推理小説だったので、3年ぶりの新作はどんなものだろうと思っていたら、これがすごい小説だったのです。
 念動力を手に入れた人間たちによって、崩壊し再生された1000年後の世界。念動力を使って他者に攻撃しないように幼いときから教育を受ける管理社会の恐怖と、一見平和に見える世界を襲う危機が描かれます。正直、生理的に受け付けない箇所があり読むのを止めようかなと思うことも何度かありました。しかし、ページをめくることを止めることができず、結局一気に読んでしまいました。圧巻は世界を襲う危機とそれに立ち向かう主人公たちの戦い。最後には驚くべき真実が待ち受けていて最後まで本当に目が離せません。
 本書に描かれる社会は人間に教育を施し管理するわけですが、なぜ人間を管理しなければいけないのか、という問題を考えたとき浮き彫りになる人間の凶暴性に背筋が凍る思いがします。「念動力」を「武器」に置き換えるだけで容易に世界は現在にシフトしてしまいます。人間は結局、理性だけでは自身をコントロールできないのでしょうか。エンターティメントでありながら様々な問題を内包している小説です。

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増住雄大

評価:星3つ

 本や漫画や映画の感想で「感情移入できた」というのを、よく目にする。それは良い意味の言葉として用いられている。逆に「感情移入できなかった」は悪い意味で使われることが多い。
 では「感情移入できなかった」作品は、すべて良くない作品なのだろうか。答えはNOだ。そんなことは決してない。私は、この作品の「人間」に「感情移入できなかった」。しかし、本書は良い小説だと思う。
 先入観なしで読んでもらいたいタイプの作品なので、内容紹介は少しにしておく。
1、舞台は1000年後の日本。
2、人間は「呪力」を持っている。
 上記の説明でわかるように、本書はSF。その意味で、貴志祐介作品を『青の炎』しか読んだことない人は違和感を抱くかもしれない。でも根っこはどちらも貴志祐介。筋運びがうまくて、次が気になり読まされてしまう。
 残虐な描写がありますので、苦手な方は注意。貴志祐介だってわかってて読む人の中に、そんな人はいないと思うけれど。

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松井ゆかり

評価:星3つ

 この大長編について何から言及すればいいか混乱するばかりなのだが、「貴志祐介ってこういう話も書く作家なんだ!」というのがまず押さえるべきポイントかと思う。確かに(私が読んでいないだけで)SFっぽい著作もあるようなのだが、貴志祐介をSF作家とは思っていなかった読者にとってはかなりの驚きだったのではないか。
 舞台は約1000年後の日本。そこは呪術が支配する世界だった。主人公早季はひょんなきっかけから自分の生きるコミュニティに疑問を抱く…。
 超能力によってほぼ万能となったことと引き換えにするかのように、生き方も情報もすべてが管理される人生。過去の過ちを繰り返すまいとしながら、結局破綻の道をたどり始める人間たち。人類とは愚かで、しかしかけがえがない。ただ、人間以外の生物への偏見が結局払拭されなかったのは残念(それもまた人間というものを描くための手段だったのだろうが)。
 それにしても、子どもの頃から性的な接触を奨励するという設定は必要だったのだろうか?ちょっと詰め込みすぎな印象。

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望月香子

評価:星4つ

 1000年後の日本が舞台。呪力を持った子供は、その日から大人になるための訓練が行われるという時代。「八丁標の外にでてはいけない」という恐ろしい伝説が町を覆い、呪力を持った人間が、呪力を持たない人間を支配する…。新しい秩序をつくるための革命に挑んでゆく少女が素晴らしい。
 呪力という権力を握る立場の人たちが、それ以外の人たちを都合の良いように支配し操る…。なんていう1000年後の日本の設定を、現在の日本と重ねて読んでしまうこともしばしばです。エンターテイメントの物語を超えて、現状の世界の問題点を打破するのには…と、現実と並行して考えながら読めようになっているのがすごいです。

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