『オブ・ザ・ベースボール』

オブ・ザ・ベースボール
  • 円城塔(著)
  • 文藝春秋
  • 税込1,200円
  • 2008年2月
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佐々木克雄

評価::星3つ

「Don't think, feel」とブルース・リーは言った。本作はまさにその言葉が当てはまるのではなかろうか──ひたすら「感じろ」と。ふたつの短編が収められたこの本は、小説というよりもむしろ現代美術のようなイメージに近い。「何を意味してるんだか、まったくワカリマシェン」と両手をあげればそれまでよ。そんな挑戦的な作品でもある。だって表題作は空から人が降ってくるんですよ。それを主人公の「俺」はレスキュー隊員として、バット片手に立ち向かうっていうんですよ。オカシイじゃないですか。落ちてくる人についての考察だけで長々と繰られる文章を読んでいるウチに、読んでいる自分が何処にいるのか分からなくなってくる。いえ、作品を否定しているのではなく、摩訶不思議な世界に痺れているのです。自分の目に見えてきたものは乾いた町の風景と、砂埃、そこに立ちつくす「俺」──でも世界観を共有できそうにないなあ。
 もう一作も含め「考え、理解する」ようにすると、ドツボにはまりそうな気がする。

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下久保玉美

評価:星2つ

 年に一度の割合で空から人間が降ってくる田舎町の風変わりなレスキュー隊いや撃墜隊ともいえる集団の話で、なんで人間が降ってくるのか、なんでレスキュー隊は担架ではなくてバットを持っているのか、なんてことは全くわからないまま、時に物理や数学の知識で読者を翻弄しながら淡々と話は進んでいきます。よくわからない、シュールな話。誤読、いや無知を承知で言うならば本書表題作は「村上春樹的不条理小説」と言えばいいのかもしれません。
 村上春樹が60〜70年代生まれの作家にとって影響力の強い作家で、実際読んでて作風が影響受けてる、と思う作家は多いです。本書もそうなのか、と思いながら読んだのですがそれでは書評としては面白くもなんともないではないですか。いや、ちょっと待てよと。もしかしたらこれは読者の中にある「村上春樹的世界」を意図的に作り出すことで、これってハルキ?って読者が思うことを楽しんでいるのではないか、と思うのですがどうでしょう。でも、これだと楽しめるのは作者だけですよね。

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増住雄大

評価:星3つ

 1年に1回、人が降る村。そこには、落ちてくる人を待ち構え、バットを持って麦畑をうろうろするレスキュー・チームがあった。
 主人公が語る、薀蓄、というか落下への考察がおもしろい。間違った方向(ゴールではない方向)に適当に走る(全力疾走ではない)マラソンランナーのような感じ。もはやレースに参加する気はないのかもしれない。
 背景説明がないのが、いい。理由説明がないのも、いい。本当のところは誰にもわからないのが、いい。作品が進む矢印はぶれることなく結末に向かい、「オチ」(らしきもの)もある。とてもとても、うまくまとまっている。
 もう一方の作品「つぎの著者につづく」にも言えるけど、「知識」をたくさん身につけている人が、書いた、という印象。ペダンティックな表現が溢れている。でも、嫌味じゃない。
「知識」はひけらかせばいいものではない。円城塔は、世界との、また、読者との距離の取りかたが上手いと思う。だから、その豊潤な「知識」が魅力的なものとして私の目に映る。

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松井ゆかり

評価:星3つ

 表題作と「つぎの著者につづく」の2編が収められている。「オブ・ザ・ベースボール」はけっこう読みやすく、よくわからない部分もあるものの、なかなかおもしろく読んだ。「えー、バット持ってたらああなっちゃうんじゃ?」という読者の懸念など知らぬかのように、ひねりなくそのままオチとしてしまうようなところにかえって衝撃を受けたりもしつつ。
 なーんだ、SFのすっごい難しいのなのかと思ってたらそんなことなかったじゃん、よしよし…とのんきに構えていた私の予想を軽く凌駕した「つぎの著者に〜」。読むには読んだが、どこまで理解できてたか判然としない。さすが円城塔などというペンネームをつけるような人は違う、と唸らされた(本名じゃないですよね?まあ、本名だとしてもこのような名付けセンスをもつ保護者に育てられた人物は傑物になりそうですが)。

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望月香子

評価:星3つ

 空から人が降ってくるファウルズという小さな町が舞台。一年に一度、人が降ってくるその町で、レスキュー隊は落ちてきた人をバッドで打ち返すのが仕事。でも実際には空を見上げているのが仕事のようなもの…。
 空から魚が降ってくるという、村上春樹の『海辺のカフカ』をつい思い出しますよね。サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』の雰囲気にもどこか共通するものがあると感じました。
 全体を漂う倦怠感。哲学や数学に関するさまざまを述べる主人公の語り口は、諦めの中にもどうしてか前向きさを感じるのが不思議で魅力です。
主人公が所属するレスキュー隊仲間のジョーとの粋な会話が少量で効くスパイスのよう。
 併録されている『つぎの著者につづく』は、小説の醍醐味を味あわせてくれる、小説空間へ入り込める作品。

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