『メフェナーボウンのつどう道』

メフェナーボウンのつどう道
  • 古処 誠二 (著)
  • 文藝春秋
  • 税込1,785円
  • 2008年1月
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佐々木克雄

評価:星4つ

「戦争を知らない子供たち」という歌を知らない子供が増えている──という話すら、何のことか分からない人が多いはず。けれど、この国は60余年前、確かに戦争をしていたわけである。その語り部たちが徐々に去りつつある現代に、古処氏の戦争小説の存在意義は大きい。
 戦争を実体験した方々からは、戦後生まれの作者が描くフィクションにリアルを感じることができず、嫌う声もあるようだ。だがフィクションであるからこそ描けるエンタテイメント性、人心の繊細な揺れ動きの妙に戦後世代は引きつけられるとも考えるのだ。本作ではビルマでの撤退行において、従軍看護婦の静子と救援看護婦である現地女性との価値観の違い、違うからこそ分かっている静子の矛盾が克明に描かれている。「戦争=悲惨」だけでないものがある。
『遮断』『敵影』と直木賞を逃すたびに忸怩たる思いを個人的にしてきたのだが、本作が文藝春秋発行ということで、いよいよ古処作品が大舞台に立とうとしているな、と期待している。

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下久保玉美

評価:星3つ

 先日市川崑監督がお亡くなりになったので代表作が放送されてました。「ビルマの竪琴」もそのうちの1つで、本書は時間的にはこの「ビルマの竪琴」の少し前の頃、戦況が悪化し戦略的拠点から撤退を余儀なくされた日本軍、従軍看護婦、そしてビルマの現地人たちの「メフェンナーボウン」=「仮面」を描いています。
 戦時下、ましてや戦況が悪化し生きるか死ぬかの瀬戸際では自分を守るために「仮面」をつけなければならない。兵士ならば敵を殺すため、負傷して動けなくなった仲間を見捨てるためであり、ビルマの現地人ならば植民地化され支配されても生活やプライドを守るために。しかし「自分よりも他人のために」をモットーとする赤十字看護婦ならば「仮面」をつけていないかといえばそうではない。看護婦たちもまた生死の境を綱渡りしている以上、どこかで切り捨てなければならない部分がある。モットーと生死の駆け引きの中で「仮面」をつけるかつけないかの葛藤や苦悩、後悔が兵士側から語られがちな戦争小説とはまた違った戦争小説を作り上げています。

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増住雄大

評価:星3つ

 古処誠二と言えば戦争小説。直木賞候補にも何回か挙がっているから、ある程度の本好きなら、古処作品を読んだことがなくても、そのイメージは持っていると思う。知名度は結構高い。
 でも、知名度と比較して、古処作品の熱狂的ファンは数が少ないのではないか(多分に主観入ってます)。書店で書店員直筆のPOPを見かけることが少ない(気がする)し、アマゾンのレビューや読書系ブログに取り上げられることも少ない(気がする)。
 要因はおそらく「戦争小説」というジャンルだろう。このジャンル、食わず嫌いの人が多いのではないだろうか。そういう方たちには一言物申したい。とりあえず、まあ、食べてみろ、と。題材は戦争でも、描かれるのは普遍的な問題であり、物語であるからだ。
 今作の舞台は、大戦末期のビルマ。主人公は日本赤十字の従軍看護婦。メフェナーボウンとは仮面のことであり、誰もが仮面をかぶっていることの比喩である。
 正しいこと、は見方によって変わる。そんな当たり前の事実を改めて突きつけられ、そのことについて考えさせられる作品だった。

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松井ゆかり

評価:星4つ

 私は古処誠二という人の小説を読むと、作品そのもの以上にがぜん著者本人のことが気になってしまうのである。何故この人はこんなにも戦争というものにこだわるのか。物語自体は戦時中を舞台にせずとも書けなくはない人間の心の動きが描写されていると思うが、まず戦争ありきで描いているのか、それとも題材によっては現代ものでいくということも念頭にあるのか。興味の対象が現代の若者のものとはとても思えないが、合コンに行ったりiPodを聴いたりなどするのか…。
 このような読者の存在を著者は決して歓迎しないだろう。5年に1冊くらいでいいので「アンノウン」みたいな現代ものも書いていただけるとうれしいです、という希望を述べて、想像を中断する。
 主人公は戦時中にビルマに派遣された赤十字の従軍看護婦静子。戦争が人間の心をいかに歪めるか、静子の眼を通して描かれる。正義感から負傷兵を助けに戻るが、それが原因で隊の撤退を遅らせてしまう同僚看護婦。よき理解者だと思われたのに、実は看護婦たちを女子供と見下していた軍曹。親しくなればなるほど、それぞれの母国の違いを静子に意識させるビルマ人看護婦。登場人物たちが極限状態で必死に自らを支えなければならなかったという事実が、胸に迫る一冊。

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望月香子

評価:星4つ

 大戦末期のミャンマー(旧ビルマ)が舞台。兵站病院からの撤退を命じられた日赤看護師らが350キロ先にあるモールメンを徒歩で目指してゆく…。
 主人公の看護師静子は、ビルマ人看護師、負傷兵、衛生下士官らと共に行動してゆきます。その過程で、表面上だけのやりとりから、しだいに互いの本心があらわれてゆく様が描かれています。
 状況によって、善悪が入れ替わる極限の状態。メフェナーボウン(仮面)を人はみな被っている…。ということを主題に戦争を舞台に描いている作品です。

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