『犬はどこだ』

犬はどこだ
  • 米澤穂信 (著)
  • 創元推理文庫
  • 税込777円
  • 2008年2月
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  1. 桜姫
  2. ライダー定食
  3. 犬はどこだ
  4. 墓標なき墓場高城高全集(1)
  5. ひなのころ
  6. 贖罪
  7. ジャンパー グリフィンの物語
岩崎智子

評価:星3つ

25歳にして銀行をリタイアした主人公が選んだ職業は、犬探し専門の探偵。なのに、持ち込まれるのは、「失踪した女性を探して欲しい」「古文書の由来を探って欲しい」と畑違いの相談事ばかり。「失踪した女性探し」とくれば、映画にもなったレイモンド・チャンドラーの『さらば愛しき女よ』みたいだが、「大男の恋人探し」ではなく「祖父の孫娘探し」なので、色っぽい要素は皆無(なんて思っていたが…以下割愛)。後者の「古文書の由来探し」なんて、北森鴻さんのシリーズもの、蓮丈那智&三國コンビの専門だろう。ハードボイルドなイメージに憧れているだけの助手に解決できるか?と思いきや、意外としっかりしていて驚く。残念だったのは、肝心の失踪した女性についてだ。関係者からの情報によって、彼女の別の面が次々と明らかになるが、「じゃあ本当はどういう人だったのか」という点が、本人からは明かされず終わる。そのため、実像がつかめず、モヤモヤした感じが残る。また、本作は助手と主人公の一人称で交互に描かれており、一応、「私」「俺」と人称を変えているが、ある程度読まないと、どちらの視点で書かれているのか分かりづらい点もあり、気になった。

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佐々木康彦

評価:星3つ

 犬探し専門の探偵事務所なのに、開業初日に持ち込まれた奇妙な人探しの依頼。そして後から持ち込まれた古文書の調査依頼。一方では些事に過ぎない出来事が、もう一方にとっては核心を衝いた出来事だったりするのはよくある手法ですが、繋がっていくと驚きもあり、やはり楽しく読めます。そして、チャット仲間の協力で事件の真相に近づいていく中盤の展開は、自分がパソコンに無知だからかも知れませんが、非常に興味深く、また物語に勢いがついて、ここからは一気に読んでしまいました。
 ただ、真相究明に繋げるために、古文書の調査を無理やり物語に組み込んだ感じが読んでいてどうしても拭えず、また、たまに出てくる難しい言葉が通常の平易な文章にいまいちハマっていないような気がして、のめり込んで読むまでには至りませんでした。しかし、それはまるきり私の主観というか好みの問題。ラストとそこに至るまでの仕掛けも驚きがあって、楽しく読めると思います。

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島村真理

評価:星5つ

 淡々と事務的にきちんと仕事をこなす探偵、いや調査員、紺屋が好きだ。犬捜しの調査事務所を開いたとたん、失踪人捜索と古文書の解読依頼。そして、転がり込んでくる探偵志望の後輩。社会復帰のためとはいえ、これだけ意に沿わない展開を受け入れることは難しい。なのに、さらりと(頭の中では否定しつつも)前に進む紺屋を、きらきらした目で見てしまうのもしかたがないでしょ?ハードボイルドといえばそれまでだが、感情的にならずに有能すぎるのも少々変かも。依頼された仕事がその後、形を変えてクロスしていくのはワクワクしました。
 解説を読ませてもらうと、作者がかなり意識的に作品づくりとキャラクター作りをしていることを知ることができる。過去のすばらしい作品をリスペクトし、ファンをニヤリとさせてくれる、文句なくすばらしい才能と出会えて含み笑いがとまりません。

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福井雅子

評価:星4つ

 犬探し専門の調査事務所のつもりで開業した私立探偵が、失踪人探しと古文書解読を依頼されて事件に巻き込まれてゆく探偵小説。話がうますぎるなあと苦笑しながら読み進む。サクッと読めて良くも悪くもあとをひかない、よくある軽めのミステリーだ。でも、読みやすく軽快な文章は決して軽薄にはならず、ストーリーは無理なくなめらかに流れる。どうやらこの軽快さと読みやすさは計算されたものらしい。むむむ……軽めのミステリーといえども、これはかなり質が高いかも……。トリックやアイデアに引きずられてストーリー展開や文章がぎくしゃくしてしまい、小説としての価値を下げてしまう作品がよくあるが、そんな稚拙さがないこなれた感じが好感度大である。
 欲を言えば、ストーリーにもうひとひねりあってもいいような気はするけれど、通勤鞄に入れて持ち歩き移動中に読むには、内容も文章も軽めでちょうどよいと思う。

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余湖明日香

評価:星4つ

米澤穂信作品に共通する、世間の平均値とは少しだけ離れた主人公と、鋭い人間観察が冴える余韻を残すラストが好きだ。
この作品も、世の中を一歩下がって見ているような、社会から一度ドロップアウトした私立探偵が主人公。主人公とコンビを組む探偵志望の後輩も、軽い見た目からは意外に思える彼なりの価値観を持っている。
探偵事務所に舞い込んだ二つの依頼が、読者の私たちには関連がわかっているのだけれど、なかなか交差しそうで交差しないところがもどかしくも面白い。その二つの依頼が結びついたとき明らかになった結末が、読後一ヶ月たってもどうにも頭を離れない。人間の裏表、心の奥に潜む闇、他人に対する思いや行動。ネガティブな部分を否定しつつも、自分にも当てはまるかもしれないと恐れている自分がいる。

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