『贖罪(上・下)』

贖罪(上・下)
  • イアン・マキューアン (著)
  • 新潮文庫
  • 税込(上)580円 (下)620円
  • 2008年3月
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  1. 桜姫
  2. ライダー定食
  3. 犬はどこだ
  4. 墓標なき墓場高城高全集(1)
  5. ひなのころ
  6. 贖罪
  7. ジャンパー グリフィンの物語
岩崎智子

評価:星4つ

第一部の舞台は、1935年夏、イギリス。良家の娘ブライオニー・タリスは、帰省する最愛の兄のために自作のロマンス劇を上演しようと意気込んでいた。家族、兄の知人であるチョコレートバー長者、掃除婦の息子ロビー、全ての登場人物がタリス邸に集まって来る。第一部は、それぞれの視点で物語が描かれ、登場人物の内なる焦燥感や苛立ちが明らかにされる。何やら事件が起こりそうな予感をはらませる、上々の滑り出しだ。架空のロマンスにおいては寛容だったブライオニーが、姉とロビーの現実の性愛を目撃した時に、激しい嫌悪感を抱き、嘘をついて、二人の仲を引き裂いてしまう。第一部の幕切れは、ブライオニーの少女時代の終わりを象徴し、ロビーの母親の「嘘つき!」という叫びが、その後の彼女の人生を支配する。第二部、第三部では、戦時下のブライオニーと姉、ロビーが描かれ、最後に「贖罪」というタイトルで、一九九九年、小説家となったブライオニーの現状が綴られる。実はこのラストの章がキイであり、「小説家だけができる贖罪のかたち」について、考えさせられる作品だった。

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佐々木康彦

評価:星5つ

 登場人物の内面描写にはかなり惹きつけられるものがあり、それを読むことが出来ただけでも良かったのですが、それ以上に本作は「物語という背骨」がしっかりしていて、終盤のしかけにも驚きがあり、物語としての単純な面白さで読み進めることが出来るので、非常に読みやすかったです。
 果たして、ブライオニーの罪は一生をかけて償っても許されない罪なのか。ブライオニー、セシーリア、ロビーの生き様は、どのような出来事が自分に起ころうとも、そんなこととはお構いなしに人生はすすみ、そしてこの世界の中で自分だけが特別な存在ではなく、「他人も自分と同じくリアル」な存在なのだということを教えてくれます。

 ザ・小説というか、よゐこ濱口優風に言うと読了後は「小説、読んだどぉ〜!!」と叫びたくなるほど感動しました。水村美苗「本格小説」に感動された方でしたら本作は好きなタイプの小説だと思います。

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島村真理

評価:星5つ

 古典大河ドラマ、引き裂かれる恋人、そして、犯人探し。好きな要素がてんこ盛りとなった夢のような小説です。姉の恋路を邪魔してしまった少女の正義と、彼女が負ってしまう罪と結末は、戦争の悲惨さとあいまって悲劇的で圧巻でした。もちろん、引き裂かれた恋人たちや家族の崩壊っぷりもメロドラマで、見事に読者のツボを押えていて楽しませてくれます。
 けれどそういう大きな流れとは別のところに、作者の意図も見え隠れします。それが、作品の隠し味というか、小説が抱える真実というか。その点は読者にとって悲劇的に見えるけれど、希望の姿なのでしょうね。
 何はともあれ、はまっちゃって上手く言えません。一気に読ませてくれる、素晴らしい作品です。

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福井雅子

評価:星5つ

 優美で、壮大で、深い……「さすがイアン・マキューアン!」である。1930年代のイギリス上流家庭の優雅な暮らしを流れるような文章で綴りながら、ある事件を題材に愛と過ちとつぐないを描いた作品である──と第3部の途中までは思っていた。ところが、第3部の最後と、それに続く主人公ブライオニーの手記で、この作品のテーマがそれだけではなかったことに気づかされる。まだ読んでいない方のために詳しくは書けないが、愛とつぐないだけではなく、小説家と罪という深いテーマが根底にあったのだ。それに気づいたとき、精緻につづられてきたストーリーの中の小さなエピソードの数々が別の色彩を放って輝きだす。実に奥深い小説である。

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余湖明日香

評価:星5つ

第一部(上巻)は一家の運命を変えることとなったある一日の出来事を、6人の視点からゆっくりと描き出す。一つの事実の受け止め方は、人の数だけあるということを、じれったいほど丁寧に描写している。上巻を読み終わった後は、少女の罪が胸に重くのしかかり、(小野不由美『月の影 影の海』上巻の読後に匹敵するほどのやりきれなさ!)下巻でそれがなんとかつぐなわれることをタイトルから期待して一刻も早く読まなければという思いに駆られる。下巻を一気読みした後は、彼らのことを考えずにはいられない。何度も何度も頭の中でこの小説を読み返しているような気分。久々に、重く深く面白い作品と出会った。
ところでこの作品『つぐない』というタイトルで4月に映画化されるということ。イアン・マキューアンの『愛の続き』の映画化『Jの悲劇』はスリリングでとても面白かったのだが、何度も読み返したくなり考え込んでしまうこの作品は、小説という形をとってこその傑作なのではないのだろうか。それを確かめに映画館にも足を運ぶ予定だ。

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