『ライダー定食』

ライダー定食
  • 東直己 (著)
  • 光文社文庫
  • 税込620円
  • 2008年2月
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  1. 桜姫
  2. ライダー定食
  3. 犬はどこだ
  4. 墓標なき墓場高城高全集(1)
  5. ひなのころ
  6. 贖罪
  7. ジャンパー グリフィンの物語
岩崎智子

評価:星5つ

「納豆箸牧山鉄斎」では、佐藤家にやってきた箸、牧山鉄斎が、仲間の箸から「自分が納豆箸(納豆専用の箸)にされる」と聞かされる。そこから「箸達のアイデンティティとは何ぞや」「人間は箸をどう考えているか」という激論が始まってしまう。でも実はこれ、箸=人間、人間=神にあてて書いたのかな、と思える節がある。例えば、「我我箸は、人間様の御創りになった体で、人間様が御遣わしになった場所で、与えられた使命に御仕えする(p92)」なんて所。でも、こんな理屈をつけようとする頭の上を、笑いのブルドーザーがなぎ倒しに来る感じ。とにかく、まともな事を考えようとする気が失せてしまう。いやぁ、久しぶりに心の底から笑えました。こんなに笑えるとは、人生まだまだ捨てたものではありません。落ち込んでいる人、イライラしてる人必見です。
「ライダー定食」では、愛されないOLが、癒しを求めてツーリングに。彼女の道行きを描いたブラックユーモア炸裂の本作は、是非魔夜峰央さんに漫画化してもらいたい!感傷を一切取り払うような、シャープな画風と絶対合うと思います。

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佐々木康彦

評価:星5つ

 表題作「ライダー定食」の主人公彰子のダメっぷりは自分のことを書いているのかと思えるほど、自分に似ていて、かなり感情移入して読んでいましたが、衝撃のラストにイスから転げ落ちるほど驚きました。これについてはとても語りたいのですが、予備知識なしに無警戒で読んだ方が絶対に良いですので、私がちょっと書いたこの文すらも忘れて読んで欲しいです。人と関係するのが苦手な世のダメ人間必読のお話。
「納豆箸牧山鉄斎」は箸、「間柴慎悟伝」は蝿、という人間以外が主人公の物語で、バカバカしいことを登場人物に大真面目に語らせる内容に爆笑必至。視点が次々に変わっていく「炭素の記憶」は世の無常を描いているかのような内容で個人的にはこれが一番面白く読めました。残りの二篇ももちろん面白く、全篇ハズレなし。内容は様々ですが人間社会(と箸社会と蝿社会)の俯瞰図を、驚きと笑いと幻想の物語として描いた六篇の作品。こんな傑作今まで読んだことないっス。

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島村真理

評価:星3つ

 裏切られるという行為は、読書においては“当たり”だと思う。想像を超えた展開、結末など、読んでいてうれしいできごとの一つ。この本も、“こんなのあり?”が満載でちょっとうれしい驚きでした。
 東直己は初めてだったので、帯の「唖然、呆然、愕然」を見てもピンと来ない。解説を読んでみると、まず、「ハードボイルド作家」という言葉があるから、この短編集の隅々から匂ってくる、ブラックなユーモアとは違うところにいる人なのだろう。
 箸たちの立場で、蝿の気持ちになって、あるいは、裁判所からつれづれなるままたどった記憶。どれをとってもナンセンスで意外。一番印象深かったのは「ライダー定食」。人に嫌われる彰子の北海道バイクツーリング記だが、こんな女がそばにいたら、厭だという女を見事に表している(そんな周囲の人物のいやらしさもすばらしく不快)。もちろん人物描写だけでなく、美しい自然と殺伐とした結末が実に奇妙で、こんな気分にさせる作品もなかなかめずらしいと思います。

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福井雅子

評価:星2つ

 淡々と純小説風に描いてきて、最後にどんでん返しが待っているものや、奇抜な発想、ユーモア、ミスマッチなどをテーマに奇想天外な世界を織り成す短編集なのだが、正直に言って、よくわからなかった。単に「ブッラクユーモア」「変である」「ミスマッチ」「奇抜」というだけならこの手の文章はよく見かける。素人のきまぐれ的な文章とは一線を画す何かが、この作品にはあるはずだと思うのだが、いまひとつその魅力ある「何か」がつかめなかった。
 ただ、最近の東直己の作品とはかなり趣が違うようなので(ごめんなさい、私はこの作品が初めてです)、「素人くささ」が漂う初期の作品でギャップを楽しむという楽しみ方はあるのかもしれないなと思った。

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余湖明日香

評価:星3つ

札幌を舞台にしたハードボイルド作品の作家ということしか知らず、初めて手にした東直己さん。横浜から実家・北海道に帰る飛行機の中で一気に読んだ表題作に、ぐんぐん引き込まれた。
人間関係を築きあげる能力皆無のOLが、退職金で北海道の憧れの地へツーリングをしに行くのだけれど、このOLの描写がすごい。フェリーの食堂で1人食事をすることを周りからどう見られるか気に病み、売店でチョコレートを買って空腹をしのぐ。フェリーの中での宴会で話しかけてくる男性は自分の体目当てなんじゃないかと疑い、しかも相手にもその疑いが伝わってしまう。そうしてライダー内でついたあだ名が「ハナクソ」…。よくもまあここまでだめな女性を描けるなあ。
だれが次の納豆箸になるのか、納豆箸をめぐる箸族たちの混乱を描いた「納豆箸牧山鉄斎」や、蝿の生活を哀愁たっぷりに生き生きと描いた「間柴慎悟伝」も、どれも他人にはわからないけれど本人にとって見ては生きるか死ぬかの大問題を執拗に描いている。
一味ちがった短編を読みたい方にお勧め。

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