『ハイスクール1968』

ハイスクール1968
  1. イトウの恋
  2. ハイスクール1968
  3. 抱き桜
  4. 恋愛函数
  5. シャルビューク夫人の肖像
  6. 変わらぬ哀しみは
  7. ルインズ(上・下)
岩崎智子

評価:星3つ

 日本の若者が最も熱かった1968年に、高校時代を送った氏の自伝。昭和生まれといっても、ビートルズも、三島由紀夫も、毛沢東も、映像資料や書籍で知る事の方が多い世代から見れば、本書の内容は、同世代の出来事というより、歴史の一部みたいな感覚の方が強い。同じ時代を舞台にしていても、村上龍の自伝的小説『69』に登場する明るく楽しい高校生の方が、より身近に感じられる。距離感が違う理由は、文章から受ける印象だ。まるで日本全体が熱病にかかったかのような時代なのに、それを伝える文章は非常に冷静で、堅い。「随分大人びた高校生だな」と感じるが、人によっては、その「大人びた印象」が、「スカしている/偉そう」というマイナスイメージに繋がりかねない。本書が「当時高校生だった自分の視点」ではなく、「高校生だった自分を含めて、時代を俯瞰している大人の自分の視点」で描かれているからだ。本書が『批評的自伝』と呼ばれる所以だろう。時代のエネルギーをダイレクトに感じたい人は、文章から感じる距離感ゆえに、物足りなさを感じるかもしれない。

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佐々木康彦

評価:星3つ

 80年代後半から90年代にかけて青春を過ごした自分としては、60年代に青春を過ごした人たちに対してとても憧れがあります。自分たちが熱狂した音楽の源泉はやはり60年代にあるという思いが強く、私なんかが偉そうに音楽を語っても、ビートルズをリアルタイムで聴いてた人にはかなわんなあ、という思いが常にあるのです。知識は後からでも得ることは出来ますが、その時代時代の空気感のようなものは、リアルタイムで経験していないとわからないんですよね。
 本作は大学生を中心とした反体制運動の風が吹き荒れる中、高校時代を過ごした著者の自伝です。その時代の空気感みたいなものがすごく伝わってくる内容でしたが、よくもここまで当時のことを細かく書けたなと感心します。もちろん取材しているんでしょうが、高校時代の何年の何月に自分に何が起きたなんて、覚えてないですもの。
 若い時は映画も小説も音楽も漫画も、体験できるだけ体験しておくべきだなと感じました。そういう意味で中高校生の方々にも読んで欲しい一冊です。

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島村真理

評価:星4つ

 大人が語る大学闘争、思い出したようにテレビに映し出されるあさま山荘事件。あの時代に何かがあったことはわかるが、後の世代の私にはそれが何かよくわからなかった。1968年、高校1年生となった著者の、大学闘争の影に隠れ埋もれてしまっている高校生の政治活動と、当時の空気感を残したいという気持ちがよく伝わってくる。
 東大への進学者を多数輩出している進学校、“教駒”で中学校からの持ち上がりの真面目な優等生が、ビートルズやロック、多数の文学や映画に影響される興奮と、周囲で巻き起こる反戦や体制への反抗の数々を目の当たりにし、翻弄されて傷ついて行く姿。その中で彼らは、なんと前向きで行動的で積極的なのか。それが、時代だといえばそれまでだけど、驚かされるばかりだった。
 私の記憶では、この時代について特に教えてもらった覚えはない。まだ、客観的に扱うのは早いのかもしれない。60年代後半の流行と真実を知りたければ、この本を読んでもらいたいと思う。

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福井雅子

評価:星2つ

 大学闘争に揺れる60年代後半の若者文化を、当時高校生だった著者の目を通して詳細に描いている。音楽、小説、詩、漫画、雑誌……サブカルチャーを含めた当時の文化的な状況を、多岐にわたって細かく記録している。高校生のやわらかい感性が新しいカルチャーと出会ったときの大きな衝撃が伝わってくるような本である。
 当時の文化的な状況が幅広くこまかく語られていることから、資料的な意味での価値もあると思うが、その時代に高校生・大学生だった人には懐かしさでいっぱいの感動の書かもしれない。60年代終わりに同じカルチャーの「波」をかぶった人にはぜひおすすめしたい。話にはきいているけれど感覚的にピンとこない世代の私には、興味深くはあるけれど、「感動を共有できない疎外感」が拭い去れない本だった。

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余湖明日香

評価:星4つ

独特の四方田節は、自伝になっても面白い。60年代の若者について興味があるのだが、不勉強でまだまだわからないことが多い。自分の高校時代と比較しながら読むと、あまりにも違いすぎるところがなんだか羨ましくもある。
特に16歳の四方田氏が、人生の転機となったバリケード封鎖の経験を書いた章は一気にページをめくった。バリケード封鎖をしたメンバー達のために一旦家に帰って食料を調達し、夜に戻ってくると教室は全く元通りになっていたことを知った時の、四方田氏の孤独・挫折感はとても印象的。
1960年代後半の学園闘争を記録したものは多くあるが、その時代の高校生の記録はほとんど残っていないらしい。村上龍さん原作の映画『69』のDVDを今回初めて見たが、作品のトーンこそまるっきり違うものの、バリ封をノリでやってしまうところやランボーに心酔している姿など、合わせて楽しめた。私の高校生時代といえば、小説やマンガや新しく知る音楽に夢中だったことは同じだが、挫折や孤独を深く感じることはなかったように思う。それだけ大きなチャレンジも足りなかったから?と少しさびしく思った。

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