『恋愛函数』

恋愛函数
  1. イトウの恋
  2. ハイスクール1968
  3. 抱き桜
  4. 恋愛函数
  5. シャルビューク夫人の肖像
  6. 変わらぬ哀しみは
  7. ルインズ(上・下)
岩崎智子

評価:星3つ

 いつも北川さんの作品を読む時は、頭を途中で整理するために、鉛筆と紙が必要になる。というのは、「Aは実はBとCの子供ではなく、Dの遺伝子を云々…で生まれた子だ」という風に、登場人物のアイデンティティに関わる部分が、コロコロ変わるからだ、さて、今回もやはり、鉛筆と紙のご用意を。男女の最高の相性を科学的に導き出すGP相性診断システムを使ったブライダル情報サービス会社グロリフで、「最高の相性」とお墨付きを貰ったカップル間で殺人事件発生。登場人物はいずれも謎を秘めており、コロコロ変わるのは恋愛感情。「AがBの事を好きだと思っていたら、実はキライだった。」という展開もあれば、その逆もあり。真相が明かされる毎に登場人物達の印象がクルクル変わってゆく。しかし本作の場合、捜査を担当する警察が後手に周りがちで、印象が薄い。そのため、「専門家」である警察の推理よりも、やむを得ず事件に巻き込まれてしまった「素人探偵」が先に結論にたどり着く展開について、意外性も痛快さも感じられなかった。

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佐々木康彦

評価:星3つ

「色は思案の外」なんてことを昔から申しますが、恋愛というものは突き詰めていけば子孫を残すことに繋がるわけで、ということは本能のど真ん中の欲求なのでして、そんなものに対して人の理性なんてものは、吹けば飛んでく将棋の駒に等しいのであります。
 本作には男女の相性を数値化したGP値というものが登場しますが、その数値が異常に高いカップルに暴力事件が起こります。やはり好き過ぎると理性が働かなくなるのか、と事はそんな単純なものではありません。隠されていた人間関係、GP理論の成り立ちなど、様々な新事実によって明かされる事件の真相はちょっと複雑。読みはじめに単純な真相を予想していた自分が恥ずかしい。
 見た目重視と言うほど簡単なものじゃないのかも知れませんが、人って結構見た感じで決めている部分が大きいと思っていましたので、作中のGP理論は面白いと思いました。
 ただ、ちょっとひねくり過ぎた感があり、気がつけば皆がちょっと隠し事のある人になっていて、読んでいて疲れた部分もありました。

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島村真理

評価:星3つ

 ブライダル情報サービス会社「グロリフ」の会員が不審な死を遂げ、紹介されたカップル間でトラブルがあったことがわかった。それには、GPという恋愛相手の相性の数値が関係しているらしいのだが・・・。
 調べても、調べても、余計こんがらがってきます。本の分厚さもさることながら、わかったと思ったことが覆されるので、謎が謎を呼び、誰が敵で味方かわからなくなります。もはや、誰も信じられません。全員容疑者。
 そういう意味では、複雑さがぐいぐい読ませる魅力になっています。けれど、あまりに疑り深くなって、どっと疲れるという印象だけが残りました。これだけかき回しといて、その結末ですか?といいたいのですが。いえ、私がすっかりストーリーに置いてきぼりにされたからの印象かもしれません。

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福井雅子

評価:星4つ

 カップルの相性を数値ではじき出す「GP理論」なるものと殺人事件との間で、たくさんの人物が登場し、たくさんの仮説が立てられ、次々に新たな疑念が湧き上がる。パズルのような込み入ったストーリーと、スピード感あふれる展開が特徴の長編ミステリー。
 いろいろな人物が登場してそれぞれに仮説を立て、真相究明のために行動を起こす──そのたびに振り回される読者は、それを何度も繰り返すうちに何が何だかわからなくなってくる。とにかく忙しい小説なのである。そのスピード感とパズルのような複雑さがこの作品のウリなのだが、あまりに込み入りすぎて、何が単なる仮説(登場人物の誰かが言ったこと)で何が事実(事実として書かれていること)なのかがわからなくなってしまい、ちょっとやりすぎの感もある。ともあれ、これだけ目まぐるしい展開を支えるアイデアと構成力はもちろん、六百ページを超える長編を飽きさせずに引っ張っていく力はすばらしい!

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余湖明日香

評価:星2つ

北川歩実さんは『透明な一日』という作品が好きだったのだが、この作品は少し読むのがつらかった。
主人公は二人いる。作家の貴井は結婚相談所「グロリフ」の取材をしている最中、「グロリフ」で見合いをしていたカップルの殺人事件に関わることになる。もう一人の主人公・沙耶は、「グロリフ」に相性診断の理論を提供している会社で働いている。
本編は貴井と沙耶とその周りの人物の会話で埋まり、その会話のほとんどは事件の推理をひたすら話し合っているという印象だ。
どんどん新しい事件が起きたり事実が発覚していくのだけれど、主人公がそれをまとめる隙さえ与えず話は展開していき、読んでいる私も新しい事実や推理の面白さに追いつけずアッと驚く暇さえなかった。
ここまでどんでん返しや事件の変化を盛り込まなくていいので、人物の描写や一つ一つの推理や説明にもう少しページを割いて欲しいと思った。

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