『ルインズ(上・下)』

ルインズ(上・下)
  1. イトウの恋
  2. ハイスクール1968
  3. 抱き桜
  4. 恋愛函数
  5. シャルビューク夫人の肖像
  6. 変わらぬ哀しみは
  7. ルインズ(上・下)
岩崎智子

評価:星3つ

 サム・ライミ監督作として映画にもなった『シンプル・プラン』の原作者、スコット・スミス。彼の13年ぶりの新作は、『シンプル〜』同様に、ちょっとした思いつきがとんでもない惨事になってしまう物語。バカンスでメキシコにやってきたアメリカ人の男女4人組は、行方不明になった見ず知らずの男性を探すため、マヤ文明の遺跡探検に出かける。『うっかり考えもせずに選んだところへ行ってしまうことがある。無計画だとそういうことが起きて、予定していた人生を全うせずに終ることになる。(p51)』4人のうちのひとり、ステイシーが思い出す叔父の忠告をなぞるように、彼等は「うっかり考えもせずに選んだところ」で、マヤ人の襲撃と意外な襲撃者に挟まれてしまう。襲撃者の持つ瞬間的な怖さ。仲間どうしの疑心暗鬼、食料不足による苛立ち、先に死んだ者の変貌など、じわじわと人の心を蝕む怖さ。速度の違う二種類の恐怖が相乗効果を上げる、出口なしの閉じ込められ系サスペンス。

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佐々木康彦

評価:星3つ

 ジャングルの奥地、隔離された主人公たちと、そこで繰りひろげられる惨劇。状況は怖いのですが、災厄の元凶に、う〜ん……と首をかしげてしまいました。
 この明らかなB級さというのは、個人的には嫌いじゃないのですが、有り勝ちな内容と言えなくもありません。しかし作中、主人公たちが、もしもこの出来事が映画になれば自分の役はどの俳優が演じるか、と冗談を言い合うのは、このB級さが確信犯だということを暗に示しているのかも知れません。
 ただただ苛酷な状況におかれる主人公たちの苦痛や恐怖を延々と読まされて、読了後まで気分が落ち込んでしまいましたが、どこか可笑しく思ってしまうところもあるのはこのB級さのおかげで、これがひとつの救いのようなものになっているのであれば、やはりわざとなのでしょうか。
 難しいことは考えずにパニックホラーとして、純粋に楽しむ、いや怖がることの出来る作品です。

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島村真理

評価:星4つ

 アメリカからメキシコへ、バカンスでやってきた4人の男女。現地で陽気なギリシャ人と知り合い、わけありのドイツ人とも仲良くなる。突如現れる、退屈な毎日に飽きた若者をくすぐるような冒険。彼らは、まだ戻らないドイツ人の弟を探しに、残された地図をたよりに発掘現場へと向かう。
 行ってはいけない場所、入ってはいけないところ。そういうところへ、登場人物たちは好き好んで行ってしまう。まるで花の蜜に引き寄せられるかのよう。こういう典型的なホラーは飽き飽きするのだ!と思いながらも目を離せなくなりました。
 まったく淡々と、まるで新聞記事かドキュメンタリーのような、突き放した書き方で語り、彼らの内面を丁寧にみせてくれて怖さを増します。晴れ渡った明るい風景と反するような救いがない地獄。しまった、と思ってももう遅い。真実を知れば知るほど辛くなります。出口のない恐怖ですね。

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福井雅子

評価:星3つ

 衝撃のデビュー作『シンプル・プラン』で一世を風靡したスコット・スミスが11年の沈黙を破って発表した第二作!とくれば、どうしたって期待が高まる。わくわくしながら本を手に取ったのだが……。
 『シンプル・プラン』がドキドキのストーリー展開と、普通の人間が少しずつ壊れてゆく怖さを描いたサスペンス小説だったのに対して、『ルインズ』はただもうひたすらに「人間の精神が壊れてゆくさま」を見つめる、正真正銘のホラー小説である。上下巻あわせてかなりのページ数なのだが、プロットもストーリー展開も極めてシンプル。恐怖と絶望の中におかれた人間たちの心が、徐々に壊れてゆく様子がただただ克明に描かれ、読者は「早くなんとかしてくれ!」的な息苦しさと恐怖感のみを延々と味わうことになる。
 徐々に壊れてゆく人間を描き出す力量はやはりさすがだと思ったのだが、前作での見事なアイデアやストーリーテリングを見てしまっただけに、その部分を捨ててしまったかのような『ルインズ』にはやはり物足りなさを感じてしまった。

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