『ジーン・ワルツ』

ジーン・ワルツ
  1. ジーン・ワルツ
  2. 戸村飯店青春100連発
  3. そろそろ旅に
  4. 遺稿集
  5. エヴリブレス
  6. サトシ・マイナス
  7. 四月馬鹿
佐々木克雄

評価:星3つ

一概にミステリとは括れない。けれど生殖医療という「神の領域」感の残る世界に踏み込んだストーリーは、ある意味ミステリ以上にミステリさを醸し出している。妊娠〜出産というドラマを通じ、エンタテインメント性を全面に押し出して読み手を引きつけながらも、産婦人科医である曾根崎理恵の大胆不敵な言動には、現役医師である著者の日本医療に対する危惧と義憤が滲み出ていると思えるのだ──と、ムズカシイ言葉はさておき、読み物として大変面白い小説です。テンポもいいし、キャラたちが個性的であっという間に引き込まれていきます。
「この子は、誰の子なの?」的な展開は、ひと昔なら昼メロなんかでよくあったけど、現代医学の発展によって「こんなコトまで!?」できちゃうんですね。本作はそれがキーですけど。
 話の流れが恣意的なてらいもあるけれど、それはまあフィクションということで。何より現場をバーチャル体験できる海堂作品は、医療小説の至宝とも言えますから。

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下久保玉美

評価:星5つ

 文句なしに面白い!
 誰が代理母なのか、という謎を追うミステリとしてだけでなく、産婦人科医療の危機を追う医療ノンフィクションとしても秀逸だと思う。この国ではもう出産をすることができなくなるのではないか、という不安はここ近年とても高まっていて「何が少子化対策だよ、本腰入れるならまず産ませろよ」と思うことばかり。ただでさえ年々産婦人科医の数は減少しているのに助産院も法改正によって提携病院の確保が難しくなり、閉院が相次いでいる。やっぱりこの国は男性の、いやオッサンの国だ。それも前近代的家父長制の権化のような。
 何によってこの国の医療は崩壊しかける状況まで追い込まれたのかを考えるために、そして本書の主人公の曾根崎医師の最後の一手を楽しむために、またもう一度読みたいと思っている。

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増住雄大

評価:星3つ

 今回は「産婦人科・不妊治療」です。
 そう言って終わっても良いかもしれない。それぐらい「海堂尊」の名は、その書籍が「医療を題材にした、良質エンタメ小説」であることを保証するものとして、定着してきた。デビューから3年経っていないのが信じられない。
 本書は産婦……は、もう書いたね。ええと、サバサバした女性が主人公です。産婦人科医・曾根崎理恵。人呼んで「冷徹な魔女(クール・ウィッチ)」。彼女が担当する五人の妊婦は、それぞれに様々な事情があるようで……
 本書には風刺、というか現場からの問題提起、みたいな側面があり、我々一般市民が「このままじゃいかんなあ」と思わされるような、作者の想いが含まれています。それが説教臭くなく、読者に切実な問題であると響き、かつ、おもしろく読めるのはさすが。
 達者ですなあ、海堂尊。驚異的な速筆で、作品はどれもエンタメとして秀作。今、出版社の小説担当が、最も欲しい作家の一人じゃなかろうか。引く手数多で大変だろうな。がんばってほしいです。

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松井ゆかり

評価:星4つ

 今でこそ3児の母として人生を送っているが、結婚してしばらくした頃子どもができにくい体質だということがわかった。当時は仕事もしていたしまだ20代という年齢もあって、不妊という現実に対してほとんど切迫感がなかった。「治療しないと授からないかもしれませんよ」という医師の言葉もいまひとつピンとこないでいたところへ、思いがけず自然に妊娠したことが判明した。
 その頃の私は「子どもに恵まれなければ夫婦ふたりでやっていけばよい」と思っていた。現在でもその考えは変わらない。ただもし子どもがいないままだったら果たしてそのように冷静な頭でいられたかは、今となってはわからない。
 海堂尊という作家の小説を読むのはこれが初めてである。人工授精や代理母出産といった難問に切り込む医療ミステリーという点もさることながら、著者の作品はキャラ萌え小説としても評判が高いようなのでそこも期待して読んだのだが…う〜ん、判断はひとまず保留。ちょっと計算ずく過ぎやしないですか、この曾根崎先生。たとえ現実的じゃないと言われても、ユミやみね子といった感情派の面々の方が好感が持てるな。

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望月香子

評価:星5つ

 都内にある大病院に入局した32歳の美しい産婦人科医、曽根崎理恵。代理母出産に関わっているという噂のある理恵の、冷徹な一面と、理論を越えて情の溢れる一面とが目の前で交差し、素晴らしく賢い理恵のその魅力はちょっとすごいです。
 著者が現役勤務医だからこその、院内を巡る事情、医師と患者の溝などの臨場感ある描写は、もう何も言うことが見つかりません。DNAの塩基配列、染色体などの医学用語が飛び交う文章さえ、飲み干してしまうような勢いでぐびぐび読めます。
 顕微鏡下人工授精のエキスパートである理恵が担当する5人の妊婦や、院長、医師など、それぞれが抱える事情、成長してゆく様子に目が離せません。それが物語をいっそう立体的にしています。
 最終章に近づくと、濃厚な医療ミステリとなり、衝撃を受けます。素晴らしい。

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