『遺稿集』

遺稿集
  • 鴨志田 穣 (著)
  • 講談社
  • 税込1,680円
  • 2008年3月
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  1. ジーン・ワルツ
  2. 戸村飯店青春100連発
  3. そろそろ旅に
  4. 遺稿集
  5. エヴリブレス
  6. サトシ・マイナス
  7. 四月馬鹿
佐々木克雄

評価:星3つ

 いきなり話がそれますが、西原理恵子『毎日かあさん』が大好きです。親なら必ずや共感できる子供のアンビリーバボーな逸話の数々に、腹を抱えて笑うことシキリ──だからこそ「喜」の振り子が「哀」に向きを変えたときの感情の揺さぶられ方は半端ではなく、第4巻の終章における夫君「鴨ちゃん」の最期に号泣しました。渋谷リブロで立ち読みしながら。(あ、そのあとちゃんとレジに行って購入しましたから)
 本書は、その鴨ちゃんが描く『毎日〜』のB面とでもいいましょうか。アルコール依存症の夫が何を考え、何から逃げていたのかが随想録や自伝風小説から垣間見られるものです。とにもかくにも、強そうで弱い男の猛ダッシュな生き様が散りばめられており、共感はできないものの、彼の遺した言葉がかなりのインパクトで迫ってきて……いやもう、圧倒されました。
 312頁、途中で文章が途切れ、(未完)とある。そうか、鴨ちゃん、いないんだよね。

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下久保玉美

評価:星3つ

 エッセイとエッセイの間に未完の書き下ろし小説『焼き鳥屋修業』が入っている。その書き下ろし小説が本書の中で一番面白く読めた。
 この小説はおそらく著者の自伝的小説であり、20才前後の将来に対するモヤモヤとした不安や何かをしなければいけない焦燥感が80年代の歌舞伎町のいかがわしさと共によく書かれていると思う。「今何をしないといけないのか」、「何をしたいのか」が見えないまま「何かしたい」という欲求のため始めた焼き鳥屋での修業。不器用ながら1つ1つ仕事を覚えていくことへの充足感が今後どのような変化を主人公にもたらしていくのか、本当に進みたい道は見つかるのかといった答えは未完であるため描かれなかったのがなんとも残念。
 酒で現実から逃げ出そうとするあまりアルコール中毒になった著者のエッセイは底知れない闇がぽっかり口を開けているようだった。

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増住雄大

評価:星3つ

 〆切直前、風邪をひいた。熱出して腹壊して食べたもの吐いて頭も痛くて何かもう全部嫌になった。悲観的なことばっか考えた。身体と思考って連動していて、身体が良くない状態に置かれているときは思考も良くない方向に進むってことを実感。
 それに対し、酒飲んで吐血して病院に担ぎ込まれても妻に離婚を言い渡されてもガンに身体が蝕まれても鴨志田穣の筆致は冷静。その事実に驚嘆。すげえね、この人。
 鴨志田穣の本は(というか文章は)この本を読むまで一度も読んだことなかったし、西原理恵子の漫画もほとんど読んだことなかったから「知ってる人が亡くなってしまった……」とかそういう意味での感情の揺れはない、はず。でも、本書の最後の、妻との出会いについて書かれた「邂逅」を読み終えたとき、私の頬には一すじの涙が。肉体の死は死ではなくて、その人のことを知っている人が一人もいなくなったときが本当の死。なんて、ありきたりな言葉で〆

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松井ゆかり

評価:星4つ

 身近にアル中っぽい人がいないせいか、お酒で身を持ち崩すような人に対してたぶん私は冷淡な方だと思う。「飲まなきゃいいのに。以上。」という感じで。
 鴨志田穣という作家のことは、西原理恵子の元夫という以外に何の知識も持っていなかった。あのサイバラ氏と連れ添う気になるくらいだからおそらく大物なのだろうなあと、その存在を認識して間もなく訃報に接した。初めて読んだ著作が、文字通りの遺作集である本書である。
 もし鴨志田氏のようなアル中患者が身内にいたら、さぞかし周囲の人間は振り回されるに違いない。しかしながら、何故「飲まなきゃいい」という一般人には実に簡単に思えることがアル中患者にはできないのかが、わずかながらわかった気がした。
 友人とか編集者とか、ここまで症状が進んでる人間に酒飲ませるなよ、と思ってしまうのもまた部外者だからこその感慨だろう。きっと鴨志田氏はそういう風にしか生きられない人だったのだろう。それでもなお、長らえてほしかったと思う。

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望月香子

評価:星4つ

 42歳でこの世を去った著者の「遺稿集」。書きかけの小説、旅行、合コン、妻である漫画家の西原理恵子さんとの出会いなどについて書かれた、未刊行原稿集。
 中でも、わたしのお気に入りは、「恋のバカっ騒ぎ」。土色の肌になったアルコール依存症の著者が、雑誌の企画で合コンを繰りかえし行う。人妻編、丸の内OL編などとカテゴライズした相手の女性の生態描写と、やりとりと距離感が、たまらなく面白い。絶妙。笑いとかなしみの狭間のような文章、もっと読みたかったです。
 腎臓癌に冒された自身を、哀愁ただようユーモラスを交えて描いた著者の作家魂がすごい。

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