『エヴリブレス』

エヴリブレス
  • 瀬名 秀明(著)
  • エフエム東京
  • 税込1,680円
  • 2008年3月
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  1. ジーン・ワルツ
  2. 戸村飯店青春100連発
  3. そろそろ旅に
  4. 遺稿集
  5. エヴリブレス
  6. サトシ・マイナス
  7. 四月馬鹿
佐々木克雄

評価:星3つ

 序盤、入り乱れる時間軸に戸惑いながら読み進めるのだが、それが本作のキーとなる《BRT》なる仮想空間に関わると知るや、ググイとストーリーに引きつけられてしまった。
 ホンネを言うと、理系アレルギーのある自分にとって生命学、金融工学、物理学などなど瀬名秀明ワールド全開の言葉の数々にギブ寸前だったのであるが、なんとか持ち堪えられたのは主人公・杏子の、思いを寄せる人に対するストイックさに「キュン」となったからで、それがあの年齢まで続くなんて……なかなかの感動。
 読んでいるうちに、今ここに居る自分ってのは何だろうか、生きているってどういうことだろうかと柄にもなく考えてしまう。バーチャル世界が現実に迫ってきている昨今、この作品は一足早くにそんな世界をチラ見させてくれているのだ。
 でも個人的にはかなりハードル高かった。洋物SFを読んでいる気分だったなあと。

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下久保玉美

評価:星3つ

 『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)によると20世紀の生命科学は「生命とは何か?」という問いに対してDNAの二重螺旋構造の解明によって「自己複製を行うシステム」であるという答えに到達したと書かれている。しかし、この「自己複製を行うシステム」というのは今、生物だけのものなのだろうか。コンピューターのプログラムで生まれた「生命」が自己複製を行えた場合、これは「生命」と言えるのだろうか。
 本書は現実とコンピューターのプログラム「Breath」上に現れる人格が交差し、時に影響を及ぼしあう過程を描いている。
 「Breath」は「セカンドライフ」のようにコンピューター上に無限の大陸を作り、そこに自分のコピーを置き現実とは違う生活を送れるようにしたもの。「セカンドライフ」と違うのはそのコピーが自己律動しマスターがログインしていない時もマスターの性格に合わせて自ら行動している点。そしてそこには感情すら存在している。そう、もう1つの世界がそこでは展開され、そこでの出来事が現実にも影響を与えることになる。
 いや、本書はホラーとかではないですよ。話の主軸は主人公と高校時代の先輩との恋愛。でも、読んでて怖かった。
 今、自分がいる「現実」と思っているものは本当に「現実」なのだろうか、と。本書も「現実」と「Breath」世界が明確な区別もないまま描かれていくので気を抜いているとどちらが「現実」なのかわからなくなる時がある。地に足がつかないような不思議な感覚の残る小説でした。

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増住雄大

評価:星3つ

 その人の思考形式・行動特性・個人情報を読み取って、その人がいないときは、勝手にその人のような行動を取る自律したA.I.ってこんなに怖いのか。怖い怖いむっちゃ怖い。もしそういうことが出来るようになっても、私はしないでおこう。
 何の話かって言うと本書に登場する「BREATH」。「BREATH」は、まあ言うたら「セカンドライフ」のようなモンなんやけど、違うトコはそこ。本人が「BREATH」につないでないときも、A.I.が勝手に本人のような行動を取る。驚きの機能やけど、現実感がなくはない。そのうち出来るようになったら「そうか。できるようになったんか」て割とすんなり受け入れられそう。
 時代はどんどん進んで「現実」と「BREATH」の境界はだんだん曖昧になっていく。そして「現実」で肉体が死を迎えても「BREATH」では永久にいなくならない。想いは消えないし、思考は続く。そんな世界で「人を好きになる」ってどういうこと? 生命って何やの?
 思考実験のような小説だった。読み終わった今、考えごとがしたい。

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松井ゆかり

評価:星3つ

 FMとSFの融合。突拍子もないが意外とミスマッチの妙もある一冊だった。FMをクールなもの(あくまで曲を聴かせることがメインのFMは、音楽に目覚め始めた若者が、必ず通る道といっても過言ではない存在ではなかったか)として、信仰に近い気持ちを抱いていた我々のような世代(瀬名さんと私は同い年)には懐かしさを伴って受け止められるテイストだと思うが、若い世代にはどうなのだろうか(エアチェックという言葉など知っているのか)。
 さて、FM的な部分はまあいいとして、若干の拒否反応を抑えられないのがSF的な部分である。
 本書で描かれる近未来には、《BREATH》というバーチャル世界が存在し、自分のキャラクターが操作されることで動くのはもちろんのこと、人工知能の学習機能により自律行動するようにもなる。その世界では、生身の本人が亡くなっても永遠に生き続けることが可能なのだ。
 現在のところは「こんな世の中になるのは先のことだろう」と現実感が乏しいから“若干”で済んでいるのであって、「それほど未来のことではないのかもしれない」などと思い始めるととたんに動揺は大きくなる。10年20年先に自分がどのように感じているのか、それが気になるところだ。

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望月香子

評価:星3つ

 「永遠の恋」がテーマの近未来恋愛小説。あるきっかけで、PC上での仮想社会で、自分の分身をつくった杏子。現実の自分と、仮想社会内での分身と「共鳴」するというSF的要素が満載のラブストーリー。込み入った設定が少し難解な印象を受けました。けれど、時空を超えた恋愛とは、という命題がまっすぐで、切なさが沁みます。
 共鳴」という展開が面白く、物語の核となっていて、ぐいぐい惹きこんでゆきます。
 PCでの分身との「共鳴」を考えると、自分とは何か、という思考までいってしまいます。恋愛とSF物語に哲学的要素も含まれているようですが、この3つの相性は良いと思います。

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