『四月馬鹿』

四月馬鹿
  • ヨシップ・ノヴァコヴィッチ(著)
  • 白水社
  • 税込2,520円
  • 2008年3月
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  6. サトシ・マイナス
  7. 四月馬鹿
佐々木克雄

評価:星3つ

 これから本書を手に取る方には、あらかじめ第二次世界大戦以降の旧ユーゴについてのおおまかな知識を得てからページをめくることをオススメします。でないと主人公であるイヴァンの波乱に富んだ人生が、あまりにも皮肉で馬鹿らしいものとしか思えないでしょうし、この物語全体が不条理だらけの寓話にしか見えないかも知れませんので。
 で、ある程度のコトを理解してから読みまするに、このきっついジョークとしか思えない話がそれほど昔でないユーゴの、生死隣り合わせの時代に居合わせた男の悲喜劇であると、嫌というほど解るはずです。エロもグロもひっくるめて、本当に洒落になってないのです。
 今、巷ではちょっとした「お馬鹿」ブームでありますが、はたして馬鹿の定義って何でしょうね? 実は「お馬鹿」を演じている人ほど、馬鹿ではないのではと。むしろこの小説の世界と対極にある、平和ボケしたこのニッポンそのものが「お馬鹿」なのかも知れません。

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下久保玉美

評価:星3つ

 4月1日エイプリルフールの日に生まれ、戦乱のユーゴスラビアで嘘のような馬鹿げた人生を送った男の小説。
 なにしろ、医者を目指して大学に進学したものの冗談から反逆罪を犯したとして収容所に送られるわ、収容所から出られたと思いきや戦乱の悪化から兵士として最前線に送られるわ、戦後結婚するものの不倫をして相手のダンナにボコボコにされるわ、あげくの果てに心臓発作でお陀仏。あれ、主人公死んだのにまだページ残ってるじゃん、と思いきや死後3日で蘇生したから大変。周囲から幽霊扱いされる始末。
 この男がだんだん哀れに思えてならない。最初は自意識過剰なナルシストかと思って嫌悪感を抱いていたけど話が進むにつれて、空回りしてしまう男の姿がかわいそうに思えてくる。愛すべき、とまではいかないまでも、まあがんばれよと声をかけたいよね。
 文章も戦乱のユーゴを描きながら湿っぽくならず終始乾いたまま人生を描いています。男のもつ弱さも同じように描かれているから悲劇通り越して半ば喜劇に仕上がってます。だからなんとか読めるんだけどね。

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増住雄大

評価:星3つ

 笑ってしまう。笑う、ではなく笑ってしまう。何を? 主人公のイヴァン・ドリナルを。
 イヴァンは1948年4月1日生まれ。ネタにされるとかわいそうだと考えた両親は4月2日生まれと届け出た。でも結局、イヴァンの人生はネタにされるようなことだらけ。国を讃える日に、誰よりも国を愛していることを示そうとして、街中に飾られている国旗をたくさん盗んできたり、大統領へ宛てた手紙のコンテストで一等になろうとして、変な言葉遣いの賛辞を連発し、他人が見たら大統領を馬鹿にしてるとしか思えない手紙を書き上げたりと子供時代からずれた行動しまくり。それどころかイヴァンは大人になっても終始こんな調子で、なんだかなあ、と笑ってしまうのである。
 筋だけ追うなら、笑えない話である。かなり陰惨なストーリーだ。でも、笑ってしまう。それってすごいことだ。ヨシップ・ノヴァコヴィッチ。相当な実力者であるね。

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松井ゆかり

評価:星3つ

 私の知り合いに、どうしても子どもを4月1日生まれにしたくなくて強靭な意思の力で陣痛を耐え2日に日付が変わると同時に出産した人がいる。また高校の同級生にも、誕生日をひた隠しにしていると思ったら4月1日だったという子がいた。かように嫌われる4月1日だが、個人的にはいまひとつピンとこない感覚だ。つらい思い出と切り離せない終戦記念日とか震災の日とかより開放感があっていいような気がするのだが(川上弘美氏も桑田真澄元投手も「スラムダンク」の桜木花道も4月1日が誕生日だし)。
 本文に直接関係ない話を長々と書き連ねてしまったが、それというのも主人公イヴァンを4月1日生まれに設定する必要性を見つけられないまま終わってしまったからだ。題名にインパクトを持たせたいが故の設定なのか。旧ユーゴスラヴィアや周辺地域についての知識があれば、また違った興味深さを見出せた作品かなとも思う。

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望月香子

評価:星3つ

 4月1日エイプリルフールに生まれたイヴァンは、チトー体制下の旧ユーゴスラヴィアで少年時代を過ごす。そしてユーゴ内戦とクロアチア独立を経験し、さまざまな事態に巻き込まれる…。
 悲惨でシュールな場面が淡々とした筆致で描かれていて、でもそれがユーモアや皮肉にはわたしには感じられませんでした。悲惨さはそのまま悲惨として伝わってきます。
 300ページほどの物語が、30章に分けられ構成されているので、それが読みやすさの助けになりました。

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