『サトシ・マイナス』

サトシ・マイナス
  • 早瀬 乱(著)
  • 東京創元社
  • 税込 1,575円
  • 2008年3月
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  6. サトシ・マイナス
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佐々木克雄

評価:星3つ

 多重人格モノを読んだことがない為か、「この話はどうオチがつくのだろうか?」といつになくワクワクしながらページをめくっている自分がおりました。それと、異なる人格を活字で如何に料理するのかも興味がありまして、この作品では主人公サトシの周りにいる人々(恋人のカレンや友人のオカベetc.)が外堀を埋めていく展開であり、長年封印していた「サトシ・プラス」の謎が解けていくにつれ、ホホウ読ませるじゃないか、と感心しておりました。
 自分には少し高度なテーマだったので、読了後に多重人格についてネット検索してみますに、この障害は幼児期のトラウマなどが原因で、その回避から「別の誰か」を作りあげることだそうで、サトシがそれだったのだなと。けれどこの本全体に醸している雰囲気は、暗鬱としたものではなく、少しズレた脇役たちのアッケラカンとした言動の数々にフフフと微笑みながら楽しく読むことができた次第。愛されてるんだなあ、サトシ。うらやましいぞ。

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下久保玉美

評価:星2つ

 少年時代に自ら人格を分割し、おとなしい方を主人格として暮らしていた青年が自分の結婚話をきっかけに出現した隠したはずのもう一つの人格によって、自らの記憶をたどり人格分割のきっかけとなった父親の死の真相にせまるミステリー。
 こういう多人格ミステリーって初めてかも。たいてい過去のトラウマから無意識のうちに他の人格が生まれ、事件が起こるというのはよくあるパターンだけど、本書のように自らでリストを作って人格を分割するというのは珍しくて新鮮。
 しかし、如何せん読むのが疲れる。
 やたら太字が用いられており、太字だから重要なんだろうと思いつつ読むけどそんなことないし。終盤に語られる父親の残した絵とその死の秘密についても説明の丁寧さに欠けていたように思う。もう少し構成をうまくすれば、この謎もパズルのピースがはまる様な爽快感があっただろうなあ、と思い残念。

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増住雄大

評価:星3つ

「この小説は、多重人格の主人公が……」っつーと「暗い話? それとも怖い話?」なんて思う人が多いかもしれない。でもハズレ。本書は明るく爽やかな多重人格成長小説なのである。
 二十二歳の稲村サトシは「人生の分岐点となる重要な日」に突発的な眠気に襲われる。昔の思い出を振り返る夢から覚めると、何だか不思議な気分。まるで、寝ている間に「知らない自分」が何かをしていたみたいで……。
 基本となる設定が良いと思う。プラスとマイナスというサトシの二つの人格は、明確な人格分割リストにより半ば意図的に「本人により作られた」ものなのだ。この設定により「多重人格」という言葉が持つ一般的なイメージとは違ったイメージを、読者の中に生ませることに成功している。
 リストは何故作られたのか? ○○○の行動の意図は? そして、サトシの過去に何があった?
 少しずつ謎がとけていく過程はミステリを読んでいるようでおもしろい。って、あれ? これ〈ミステリ・フロンティア〉ってことはミステリなのか。ミステリでした。

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松井ゆかり

評価:星4つ

 創元ミステリ・フロンティアは現在最も期待している叢書だ、というのはもう何年も前から変わらず抱き続けている感想だ。もちろん出版数が増えたことでその分「あ、これはハズレかな…」と思う作品も多くなるわけだが、それでもつい新刊が出ると手をのばしてしまう。特に最近読んだものは好みのものが続いていて、これは本書も…と期待しながら読み始めた次第である。
 さて読み終えたが…うーん、ちょっと雑多な印象。なんかもっと大がかりな謎に発展していくのかなと思っていたら、「あ、最終的な解決はこれだったの…」という感じ。それ以外にも、描写や謎の明かし方などが妙にあっさりしている部分があり、そういった点もやや物足りない。ただ、自分の性格のさまざまな要素を基に分割し、複数の人格を作り出すという難易度の高い設定に挑戦している心意気は買うし、サトシ(マイナス/プラス)の周囲の人々が彼を心配し信頼を寄せるところはとても好感が持てた。

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望月香子

評価:星3つ

 大学生のちょっと気弱なサトシが、気の強いしっかり者の恋人カレンとの結婚を報告しようと、実家で母を待つ。その間に、サトシのなかの「もうひとりのサトシ」が現れる。少年時代のサトシを「プラス」と「マイナス」に分けた「人格分割リスト」をサトシは探すが…。
 サトシの父と母、恋人のカレン、友人オカベ、登場人物の印象が、物語が進むにつれ、どんどん変化してゆくのが、妙な爽快感です。多重人格者の物語なのに、悲壮感なんてなく、冒険物語として読めます。その冒険は、勇ましい限り。物語が進むにつれ、どんどんと真実が明らかになってゆく瞬間は、溜め息ものです。

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