『黒笑小説』

黒笑小説
  1. クラリネット症候群
  2. 黒笑小説
  3. かるわざ小蝶―紅無威おとめ組
  4. 裸の大将一代記 山下清の見た夢
  5. バースト・ゾーン ー爆裂地区ー
  6. スネークスキン三味線
  7. 薪の結婚
岩崎智子

評価:星3つ

書評業をやっていて、一番言われてイタイ言葉は、これである。「そんなに批評するなら、自分が書いてみれば?」いや、それが、同じ「書くこと」といっても全然違う。両方できる人もいるだろうが、そう簡単ではない。逆に、優れた批評眼を持つ者が、オリジナル作品を書いていくのは、大変難しいのではないか。極端な話、一つ書いては一つ消す、なんて事になりかねない。作家が時間給でないと同様、書評も時間給ではない。だから、「作家が何時間も考え、書いてきた作品を、その何分の一かの時間で批評する事」について、済まないなぁと思う時がある。そんなわけで、『もうひとつの助走』『線香花火』『過去の人』『選考会』の文壇もの四編は、読んでいて、笑える所もあったけれど、とても居心地の悪い思いもした。作家の苦悩と、その苦悩を汲む事なく、作品を切り捨てたり批評していく側との物語だからだ。その他の短編は、ユーモラスだが、何だか綺麗にまとまり過ぎている印象を持った。山田風太郎のエログロナンセンスものの衝撃が忘れられないせいだろうか。

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佐々木康彦

評価:星4つ

 そうか、「黒笑」とは、ブラックユーモアのことなんですね。本作は、出版業界、子供を持つ家庭、お笑い芸人、果てはストーカーまで、ユーモアたっぷりに皮肉った十三編の短篇集です。
 作品の中では特に「もうひとつの助走」「線香花火」「過去の人」「選考会」と、文学賞をめぐる人間模様を描いた四編が笑えます。公募の新人賞の受賞者が、単行本も出版されていないうちから大作家然として編集者にいろいろと注文をつけたりするのはありそうな話ですし、文学賞の受賞を待つ売れないベテラン作家の話は著者の体験談を脚色していそうで、興味深く読みました。華やかに見える小説家というお仕事も、実は大変みたいです。所詮、売れてナンボの世界なんですねぇ。小説は図書館で借りたりせずに、なるべく買おうと思いました。
「巨乳妄想症候群」や「インポグラ」のように、タイトル通りのバカバカしい話もあり、「笑」を冠したタイトルにふさわしい短篇集でした。

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島村真理

評価:星4つ

 「怪笑小説」から始まる、含みのある“笑い”がテーマのシリーズ第3弾。しんみりと感動させる小説が多い東野圭吾の作品の中で、私が好きなものの一つだ。
 ところで、彼はこういうブラックな笑いを書くのが本当に好きじゃないかと思うのだ。皮肉たっぷりな黒笑ワールドが多彩で軽快で、その上最後には愛を感じるからだ。
 13編ある短篇のうち4編が文学界に関するもの。きっと自身をも皮肉りながら書いたのかと想像すると、笑いがこみ上げてくる。もっともっと読んでみたくなる。
 注目の登場人物は、何度も賞の候補に上がりつつも、決して受賞できない寒川と、勘違いがはなはだしい、新人作家の熱海。自分たちの才能を疑いもせず、世間とずれていく彼らの暴走ぶりが痛々しいほど面白い。
 好きだったのは「臨界家族」と「奇跡の一枚」。嗚呼、そんな発想があるなんて……とおどろきよろこんで、ついにはすっかり中毒になってしまった。

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福井雅子

評価:星5つ

 これは楽しい! 作家と出版業界をめぐる冒頭の4編は、妙にリアルでちょっと毒がありすぎるように感じたが、そのほかはほどよくブラックユーモアが利いていて面白い。ショートショートのように巧妙にオチがついていたり、なるほどそう来たか!と感心する展開をみせるものもあり、とても楽しく読めた。歯切れのよい淡々とした文章も好感が持てる。
 よく練られたストーリーと無駄のない簡潔な文章で、読者をどこまで楽しませることができるか──説明や装飾を削ぎ落としている分だけ、ごまかしがきかない。簡単なようで、実は相当に力のある作家にしか書けない本だと思う。まさに、長編とは違った東野圭吾の職人芸を堪能できる本なのである。

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余湖明日香

評価:星2つ

本の売り場で働いていた時、アルバイト希望の方の面接のために、好きな作家を尋ねる。ダントツの一番人気が東野圭吾さんだった。もちろん売り場でも、新刊も既刊もばんばん売れた。
それなのに著作を一冊も読んだことない。本の担当としてさすがにまずいのではないかと思い、アルバイトの子達に、最初に読み始めるならどれがいいかを聞いたりもしていたのだけど、機会を逃したままそのまま現在に至る。
そうして初めて手に取ったのが本作。気軽な気持ちでお風呂やトイレで一編ずつ読んでいったといったら、ファンの皆様には怒られるでしょうか。
文学賞の選考会中に、賞が欲しくて欲しくてたまらないもはや落ちぶれた作家と、それぞれ勝手な思惑で冷ややかに見つめる各出版社の編集者達。新人賞受賞で一人勘違いをする駆け出しの小説家、それを冷ややかに見つめる編集者達。とタイトルどおり「黒い笑い」がいっぱいの短編集。
読んでいて面白いのに、読み終わった後なんとなく腑に落ちないのは、売れない作家、もてない男、貧乏な一家の大黒柱と著者のイメージがかけ離れすぎていて、なんとなく嫌味に思えるからかしら。

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