『スネークスキン三味線』

スネークスキン三味線
  1. クラリネット症候群
  2. 黒笑小説
  3. かるわざ小蝶―紅無威おとめ組
  4. 裸の大将一代記 山下清の見た夢
  5. バースト・ゾーン ー爆裂地区ー
  6. スネークスキン三味線
  7. 薪の結婚
岩崎智子

評価:星3つ

庭師が探偵を兼ねたものには、宮脇明子さんがコーラスで連載していた漫画『流れ庭師仁和左衛門』がある。仁和左衛門も寡黙だったが、本作の主人公、日系人庭師マス・アライも、お喋りではない。探偵が、気さくに話しかけて相手を安心させるという考え方もあるが、大概は、相手に喋らせて事件の真相に近づいていく。だから、木を相手にする庭師は、案外探偵向きなのかもしれない。さて、マスは同じ庭師とはいっても、仁和左衛門よりだいぶ年配で、日系人だ。ラスベガスのカジノで五十万ドルの大金を手にした日系人男性が殺され、傍らには壊された三味線が。殺人容疑をかけられたのが、親友のG・Iだったため、マスは彼の恋人で私立探偵のジャニタとコンビを組む。お定まりの「この事件からは手をひけ」なんて妨害もあるが、残虐シーンはないので、血を見るのが嫌というミステリーファンにもお勧め。
日系人作家で、至上初のアメリカ探偵作家クラブ賞受賞作品。マス・アライの探偵シリーズ第二作で、一作目は『ガサガサ・ガール』だそうだ。だが、ちょっとタイトルから意味が掴みづらい。本作もただ名詞をくっつけただけの邦題で、もうちょっと色気をつけた方が、多くの読者を惹き付けたのではないだろうか。例えば、『ガサガサ・ガールは殺人犯?』とか何とか。

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佐々木康彦

評価:星3つ

 素人探偵が事件を追う動機というのは、「好奇心」とか「正義感」とか「推理力を買われて」など色々あると思うのですが、本作の主人公マスが事件に関わるのは、依頼された人物に「オセワニナッタ」から。日系人のコミュニティで繰りひろげられる物語らしく、「ハジ」や「エンリョ」など、日本人らしい考えが多く出てくるのですが、それは本来の意味で使われているというよりも、日本人ならこう思うだろうからそうするといった形で使われるので、読んでいて滑稽に思えます。しかし、アメリカ社会の中で常に虐げられてきた日系人達が、自分たちの心の拠として日本人的思想を重要視しているのではないかと考えると、健気に思えて切ない気分にもなりました。
 マスは「トシヨリ」で、愛車のトラックは鍵が壊れていてドライバーで開けないといけないし、情熱があるわけでもなく、かっこ良いキャラクターではないけれど、「オーライ」な彼が主人公だからこそ感情移入して読めました。

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島村真理

評価:星3つ

 日系人庭師マス・アライが活躍するシリーズ第二弾。日系のナオミ・ヒラハラの小説だ。“日系”というから、もうすでに“日本人”ではないということをわかっていながら、翻訳本というのに違和感を持ってしまう。こういうことからも、彼らが、アイデンティティに関わる複雑な感情を有していると想像できる。アメリカ社会での立場の複雑さ、そして、戦中のオキナワを上手に扱った作品だと思う。
 堅苦しいことは抜きにして、面白いと思ったのは、彼らの間で使われている日本語や日本文化。「オセワニナッタ」、「コーデン(香典)」、「スパム・ムスビ」など、日本語が生活の中で生きているということと、私たちが使っているのとは別物の印象を与えることだ。そして、この違いを味わえるのも楽しい。
 さて、殺人容疑をかけられた親友、G・Iの無実を晴らすべく、重い腰を上げたマス。G・Iのガールフレンドと一緒に、事件の鍵をにぎる壊された三味線の持ち主を探し始めます。言葉とは裏腹に、鮮やかに事件を解決するマスの活躍をお楽しみください。

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福井雅子

評価:星3つ

 石川好の『ストロベリー・ロード』に描かれていた、日本語まじりの変な英語を話す真面目で働き者の日系人オジサンたちを思い出しながら読んだ。軽快に楽しく読めるストーリーといい、ユーモラスで憎めない登場人物たちといい、気軽に楽しめるエンターテインメント小説としては悪くないと思う。
 原文の英語のなかに日本語の単語が挿入されていることが多いらしく、それをいちいち”ハクジン”、”オセワニナッタ”などとダブルクォーテーションマークつきのカタカナで文中に入れてあるので、文章がやや読みづらいのが難点。おそらく原文のまま読めばそれがかえってコミカルな感じを演出しているに違いないとは思うのだが……。
 とはいえ、ドタバタした喜劇風の空気も感じられて、楽しく読める本である。

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余湖明日香

評価:星3つ

大学4年のときに、カナダに住む日本人の方に一週間ほどお世話になり、その縁で、トロント在住の日系カナダ人のみなさんと交流する機会があった。
日系カナダ人ってなに?というそもそもがよくわからなかった私にとって、日本語が全く話せない人から、「ハゲ」「オヤジ」と知っている単語を並べては笑いを取るおじさんがいて、私より年下なのに英語とフランス語がぺらぺらという子までいるこのコミュニティはカルチャーショックの連続。さらに初対面なのにパーティーを開いてくれる歓迎っぷりに、驚いてばかりだった。
この本はロサンゼルスの日系人コミュニティの中で起きた殺人事件をいやいやながらも調べる羽目になった日系人庭師が主人公。無口で皮肉屋で、何に対しても内心文句ばかりな主人公マスの観察眼が面白い。「エンリョ」「ハジ」などところどころカタカナでかかれる言葉は、原文の英語の中で日本語として表現されているものだろう。マスと同じく自身も日系人である著者が描く、日系人コミュニティの「ギリ」と「ニンジョウ」が興味深い。
隣に住んでいる人さえどこの誰だかわからないような日本に住んでいて、トロントのお世話になった皆さんを思い出した。

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