『かるわざ小蝶―紅無威おとめ組』

かるわざ小蝶―紅無威おとめ組
  1. クラリネット症候群
  2. 黒笑小説
  3. かるわざ小蝶―紅無威おとめ組
  4. 裸の大将一代記 山下清の見た夢
  5. バースト・ゾーン ー爆裂地区ー
  6. スネークスキン三味線
  7. 薪の結婚
岩崎智子

評価:星3つ

米村圭伍さんは、デビュー作『風流冷飯伝』や『影法師夢幻』など、男主人公の作品もあるものの、女主人公の作品の方が断然多い。そして女主人公は、大抵、世間知らずで冒険好きなお姫様か、お転婆な町娘。誰一人として、世間や親の言う事に、黙って従うおしとやかな娘ではない。それどころか、自分からぐいぐい物語を引っ張ってゆく、頼もしい存在だ。本作のヒロイン、小蝶もやっぱりそう。寛政の改革を進めていた老中・松平定信の時代では、派手なものは禁止で、厳しい倹約政策が取られた。でも、小蝶はただ、ぎゅうぎゅうと締めつけられていたわけじゃない。フットワークの軽い彼女の行く先には、一体何が?物語のテンポも良く、読み易い文体なので、「わからない用語ばかりで読みづらいのでは?」「じっくりと読み込まないと駄目では?」と歴史小説に苦手意識を持つ読者には、入門編として最適だろう。それはさておき、『風流冷飯伝』以来、ずっと挿絵を担当している柴田ゆうさんがお気に入りだった。圭伍さんのすっとぼけた作風に、やわらかい描線があってるなぁと思っていたからだ。だから、今回の表紙はあまりにイメージが違っていて、ちょっと違和感があった。

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佐々木康彦

評価:星4つ

「大江戸チャーリーズエンジェル」と帯に書かれていましたが、私、恥ずかしながら「チャーリーズ・エンジェル」って観たことないものですから、時代劇ですし、「三匹が斬る!」の女版みたいなもんか?と読み始めましたところ、「三匹が斬る」とは違ったのですが、非常に痛快。なるほど、「抱腹の痛快時代活劇」の看板に偽りなし、の内容でした。
 巻頭の目次にある九つのサブタイトルは、「江戸城に花火轟き、おとめ組幻之介を誅す」など、読めば内容がだいたいわかっちゃうのですが、本作は謎解きとかがメインではないので、内容がわかっても良いと言いますか、何だったら最初から最後まで話の内容を全部聞いてから読んでも、面白く読めるような気がします。芝居や時代劇を観るように、「よっ! 待ってました!」といったノリで楽しむ読み物ですね。本作は「紅無威おとめ組」の結成編ですが、続編がありそうな終り方。彼女たちの今後の活躍が楽しみです。

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島村真理

評価:星3つ

 テンポのいいリズミカルな時代活劇。いうなれば、日本版チャーリーズ・エンジェル。軽業師の小蝶に、お色気たっぷりの発明家萩乃、武芸者姿の桔梗の三人が悪を懲らしめる物語です。
 といっても、そもそも赤の他人の彼女たち。どうやって“紅無威おとめ組”となっていくのかというのが、本書の読みどころ。それぞれの才能がパッと花開く面白さが、軽妙なタッチで楽しめます。
 そして、やっぱり乙女なところも満載で、頭領の幻之介にほんのり恋心を抱いたり、女同士で火花を散らしたりと、ドタバタなやりとりも、思わずクスッとしちゃいます。
 もうひとつのお楽しみは、米村氏の他の作品ともつながっていること。「紀文大尽舞」のその後の話となるのでしょうか。真実にたどりつくまで気が抜けません。軽く読めるのに深い。彼女達の痛快な活躍は見納めにしたくないくらいです。
でも、ご心配なく。近々最新作も用意されているようで、その後の活躍も期待できそうです。

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福井雅子

評価:星3つ

 江戸時代の江戸の街を舞台に、謎の美男・幻之介の元に集まった個性豊かな三人娘が世直しに乗り出す、チャーリーズエンジェル時代劇版。老中・田沼意次と松平定信の確執という史実をうまく使って、ポップで明るいノリの少女漫画のような時代活劇が繰り広げられる。
 ちょっと漫画的で子ども向けという感じだが、軽業師である小蝶の威勢のいいキャラクターは読んでいて元気が出るし、漫画を手に取るような軽い気持ちでさらっと読める。ヤングアダルト世代には受けそうだが、もっと上の世代の読者をつかむには人物設定や描写にもう少し深みがあったほうがよいと思う。この本は「紅無威おとめ組」誕生の話なのだが、続編が出たようなので、三人娘が本格的に世直しに乗り出す今後の活躍に期待したい。

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余湖明日香

評価:星2つ

軽業師で元気いっぱいの小蝶、男装の女剣士桔梗、発明好きの萩乃。三人は正体不明の若旦那・幻之介に声をかけられ、松平家に隠された、田沼一族の裏金を強奪しようとするが…といった時代小説というよりは、江戸時代を舞台にしたファンタジー小説。
個性豊かな三人娘の大活躍を期待していたが、どうにも物足りない。日曜朝の特撮ヒーローもののような演出と突拍子もない発明品の数々は嫌いではないけれど、三人娘の生い立ちや動機にどうも納得できない。ですます調の文章に、ときどき歴史の講釈などが挿まれ、あまり物語の世界に入り込めないまま読み終わってしまった。シリーズ第一作、今回は三人の出会い編ということで、今後はしっかり女人救済してくれる「おとめ組」の活躍を期待。

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