『バースト・ゾーン ー爆裂地区ー』

バースト・ゾーン ー爆裂地区ー
  1. クラリネット症候群
  2. 黒笑小説
  3. かるわざ小蝶―紅無威おとめ組
  4. 裸の大将一代記 山下清の見た夢
  5. バースト・ゾーン ー爆裂地区ー
  6. スネークスキン三味線
  7. 薪の結婚
岩崎智子

評価:星2つ

「テロリン達による実に巧妙で大規模且つ長期に亘る破壊活動とサイバーテロによって、ごく短い期間に国家は重度の機能麻痺状態に陥った。(p30)」本書に登場する日本は、そんな所だ。響きこそ可愛いが、「テロリン」とは、つまりはテロリスト。「あいつがテロリンでは」と疑心暗鬼に駆られた人々は、疑いだけで、所構わず人を殴り、死なせる。大抵の女は男に犯され、その場限りの快楽を求めて薬に走る者もいる。「凄まじい」という表現がぴったりの、救いや癒しとは無縁の世界だ。彼らはそもそも救われたいと思っていないのではないか、とさえ思える。一度打ちのめされた人間は、他者を自分以上に傷つけないと、救われないのだろうか?「東京に核弾頭ミサイル5個が誤射された」という設定の『神と野獣の日』(松本清張:著)を読んだ事がある。キューバ危機の頃に『神と野獣の日』が書かれたように、9.11があって、この小説が生まれるべくして生まれたのだろう。心身が弱っている時には、お勧めしないが、逆に、気持ちを奮い立たせたい時には効果があるかもしれない。

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佐々木康彦

評価:星5つ

 架空の時代、テロリンというテロ集団の攻撃によって疲弊した社会で行きぬく、五人の人間を主に描いた物語。
 グロテスクな場面が多いのですが、そんな中に面白い場面もちりばめられていて、それがすごく笑えます。極限状態に追いつめられれば、追いつめられるほど、人間って変な行動をしているのかも知れませんが、それを傍観している読者にはおかしく思えてしまうのですね。ですから、シリアスな場面にポンっとコメディ的な話があるのではなく、シリアスな場面のままなのに笑えてしまうのです。逆に言うとシリアスだからこそ、登場人物が真剣なので、余計に笑えるのでしょうか。
 訳のわからないまま、読者も主人公たちも物語をすすめていくのですが、終盤に結構いろいろなことが明らかになります。ある程度の全容が見えた方が精神衛生上良いですし、読者に対して親切だと思うのですが、これだけ話が面白いと謎のままでも良かったんじゃないかな、と個人的には感じました。

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島村真理

評価:星3つ

 吉村萬壱の作品は恐ろしい。グロテスクで、エロで、絶望的で、目を背けたいのにどんどん引き込んでいくから。
 「ハリガネムシ」や「クチュクチュバーン」のときも、おぞましくて吐きそうだった。でも、どれも最後まで、読みきってしまうまで、やめられなかった。もちろん、この本も。間違いなく、好きか嫌いがはっきりする。たぶん、拒否反応を示す人が多いでしょう。だけど、やっぱり何かありそうで魅力的だ。
 血と暴力とセックス。吉村氏の小説によく登場するテーマだが、こういうシンプルで純化された世界は、人間が露骨に浮き出ていて、かえって美しい気もする。不条理過ぎる設定も、時々真実のように見えるときがある。著者の才能にドキリとさせられる瞬間だ。
 椹木と愛人の寛子を軸に、人がケダモノへと、そして、それさえも超越していく過程を味わえる。誰もが楽しめるかどうかは保障できないが、はまる恐れはあります。
 ただ、気弱な気分のときにはオススメできません。

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福井雅子

評価:星2つ

 強烈な本というのは数多くあるけれど、読んでいて本当に吐きそうになったのは初めてだ。これでもか!といわんばかりに陰鬱で残酷で絶望的でグロテスク。読み進めるのがつらい本だった。そういう意味では、嫌悪感が先に立ってしまっているので公正な評価とは言えないかもしれない。
 とは言え、ここまで群を抜くグロテスクさはなかなかないと思うので、好き嫌いは別として強烈なインパクトを与えるそのパワーは評価できると思う。よくぞここまで凄惨でグロテスクなアイデアを思いついたという点でも、すごいかもしれない。でも、それで結局何を表現したかったのか、何を伝えたかったのかは、私にはやっぱりよくわからなかった。

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余湖明日香

評価:星5つ

社会の機能はほとんど麻痺し、テロと、テロリスト「テロリン」と疑われたものへのリンチが横行する近未来の日本と思しき国。一体なぜこの国はこうなってしまったのか、冒頭から引き込まれる。愛国心を持ち「テロリン」をやっつけたいと志願する椹木と、彼を追って志願した愛人寛子を中心とした複数の人物の行動を追うことで、志願兵の行く末、大陸での戦争の現状、国家の政策、と状況が明らかになっていく。
グロテスクな描写も多いが、怖いもの見たさと、人間の欲深さと、国が隠してきた事実が次々と明らかになっていく過程が面白く一気読み。
これは人間と社会と国家の存在意義を問う傑作。途方もない設定なのに、リアルに感じられるのは、『ドラゴンヘッド』や『BASARA』など、荒廃した日本を舞台にした漫画を愛読してきたから? いや、何十年か後に、日本がこうなっていてもおかしくないと思う自分がいるからだ。

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