WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【単行本班】2008年7月の課題図書 >『百瀬、こっちを向いて。』 中田永一 (著)
評価:
あ、やべえ、「キュン」となった。
あだち充、小山田いく、高橋留美子らの漫画に自分の青春を重ねていた世代としては、このような底辺系高校生のドラマに思いきりハマってしまう。40過ぎのオッサンだというのに。
でも、この短編たちは世にある青春モノとは一線を画しているようだ。そのポイントは、どの話にもヒミツが隠されているからだと思う次第──浮気のカモフラージュであり、先生が覆面作家であり、敢えてのブスメイクであり……などなど。それらが彼&彼女らのココロを微妙に動かして、ミステリめいた話を展開させてるから、フムフム、よく出来てますがな。主人公に近い年代たちは、この本をどんな風に読むのかなと、個人的に気になってしまうところではある。
表題作はアンソロジーに収録されていたのを既読だったが、改めて読んでも面白いなあと。作者の正体について騒がれてますけど、まあそれはそれというコトで。
評価:
表題作を含む4編を収録した短編集。それぞれが恋のもつ魅力を表現していて甘酸っぱくも懐かしい気分にさせる。そして、各短編には読んでいるときには気付かないが最後になって「あっ!」と思わせる仕掛けが用意されている。ひょんなことで二股をかけている先輩の手伝いをすることになったモテない高校生の話「百瀬、こっちを向いて。」には花言葉が、長く意識不明だった女性がある日突然目を覚ましたことで始まる「なみうちぎわ」にはオペラグラス、などの小道具がこの仕掛けに効果的に使われている。恋愛小説という枠だけでなく、こうした謎解きのエッセンスも楽しみながら読むことができてなかなか面白い。
ただ、この小説、出版界ではかなり評判がよいらしいのだけど私にはイマイチ…。恋を楽しむ心が枯れてしまったのかしら。ただ私の友人で「ただいま恋のど真ん中」にいる人がいるがその友人が読んだらきっと浸ってしまうんだろうな。今度会ったら薦めてみよう。
評価:
どかーん。
はい。きましたどかーん。心の花火あがりましたー。すっげえ良いです。再読あんましない私が、ここ1ヶ月で5回読みました。それほど心地良い読書感。上半期に読んだ恋愛小説のベスト1っすね。
いやあ、何ともぐっとくる小説ですわ。「キュン」も「ホロリ」もばっちり詰まっていますし、何より作品全体を流れる空気が良いね。自分を物語の主人公だなんて、絶対に思ってない人たちの物語。特に、かつて教室のすみっこにいた人たちに、ぜひ読んでいただきたいです。
人が死なないのもポイント高い。恋人(or大事な人)が死ぬ「泣かせ恋愛小説」を否定するつもりはないですけど、さすがに食傷気味な人も多いんじゃないでしょうか。
『I LOVE YOU』と『LOVE or LIKE』を読んじゃったからなあ……って人! 長めの書き下ろしありますんでぜひ!
作者が○○の別ペンネームとかそういうことがどうでもよく思えるくらいの良書ですよこれは!
評価:
学校生活においてのみ発生しうるような憂鬱(どうしても気の合わないクラスメイトがいる、大勢の前で発表することを考えると動悸がおさまらないetc.)を昨日のことのように瞬時に思い出させる、少々困った力を持った短編集である。
表題作にはいまひとつ感銘を受けなかったのだが(二股をかけるような輩も、愛するあるいは尊敬する人物のためとはいえ別の相手とつきあっているふりをするような面々も感心しない)、その他の作品はどれもよかった。特に気に入ったのは「なみうちぎわ」。
しかし、最も素晴らしいと思ったのは恋愛小説としてではなく、友情小説としての側面だ。例えば表題作の田辺くん(他の登場人物たちは好きになれないが、彼だけは好感が持てた)、例えば「小梅が通る」の松代さんと土田さん。彼らのようにまっとうに生きている人々がいちばんえらい。
評価:
タイトルが、妙に気になりました。
その表題作合わせて4つの物語が収録されています。どれも恋愛もので、おっ、と思うストーリ展開が魅力。
いつもと同じ毎日が、ちょとしたことがきっかけで、とんでもないことになってしまったり、考えられなかった方向に流れたり…。ふつうの人の、ふつうの毎日の、ふつうのご褒美が描かれています。そのふつうに舞い降りる奇跡のような瞬間に、心のささくれが、そっと撫でられるような読後感。
「百瀬、こっちを向いて。」と、「小梅が通る」が、特に好きです。
WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【単行本班】2008年7月の課題図書 >『百瀬、こっちを向いて。』 中田永一 (著)